厄介な島・尖閣に関わると米中戦争を誘発 米国で勃興する「日中武力衝突を無視せよ」論
野口裕之の軍事情勢「米国の戦争に巻き込まれるな」とは、日米安全保障条約はじめ安保関連法の審議でも反対を続けたサヨクが執拗に繰り返す常套句だが、当の米国では「日本の戦争に巻き込まれるな」との論調が勃興している。日米を離反させ、「日米連合軍」ではなく、自衛隊のみを相手にガチンコ勝負したい中国に肩入れする危ない世論操作だ。米国のシンクタンクや大学にカネをばらまき、中国が米国の対日観を変える「世論戦」を仕掛けている、との観測も浮上する。特に、沖縄県石垣市の尖閣諸島をめぐる日中紛争で《日本は5日で敗北する》とうたうシミュレーション形式の記事は衝撃的だった。米ランド研究所の著名な専門家は協力しただけで、記者が取材・執筆したとされるが、中国系を含む米国内の論文・講演で目立ち始めた、次のごとき趣旨が潜んでいる点が引っ掛かった。
「日本は5日で敗北」
(1)尖閣は無人島で、米国には無価値→(2)中国の尖閣奪取を阻止せんと、日米安保条約を適用し戦力投射すれば、米中紛争にエスカレート→(3)米中核戦争に発展する可能性も→(4)深入りは米国の国益にならない。
ドスを効かせた脅しにも聞こえるが、米外交誌フォーリン・ポリシー1月15日号に掲載された、ランドが関係した記事はシミュレーションが甘く、首をかしげる戦局も多々認める。ただ、今次小欄はシナリオの賛否には踏み込まぬ。記事がはじき出した結論の方が、ケタ外れに深刻だからだ。すなわち-
(1)日米同盟は中国との衝突に「巻き込まれる」危険を伴う。
(2)中国の膨大なミサイル保有量に照らし、ミサイル防衛は難しい。かといって、中国のミサイル発射基地攻撃など対日防衛義務の多くは実行が困難。
(3)中国は力を付けた海空軍+多数で強力な弾道/巡航ミサイル+先端無人機…を保有。10年前の日本なら単独で尖閣を防衛できたが、今は違う。
(4)日本を支援するために派遣される空母は、中国の対艦ミサイルに脆弱だ。
(5)「日中尖閣紛争」への米国関与は超弩級の戦略的失敗を引き寄せる。尖閣に関する最善の危機管理は無視だろう。
「米国の戦争に巻き込まれる」どころではない。「中国とコトを構えてまで日本を助けません」と、米国の著名シンクタンクの専門家が助言したのだ。
尖閣を「厄介モノ」視
1月25日付米紙ウォールストリート・ジャーナルに載った論文にも、著者の狙いがそこにないとしても、日本防衛の戦略的価値を低く見積もる米国の一部潮流が透ける。執筆者は、前ブッシュ政権の副大統領首席補佐官だった米ハドソン研究所副所長と、日米近代史が専門の同研究所上席研究員の2人。一見、オバマ政権最終年の緩みをつき、中国は軍事基地建設で国際の注目を南シナ海に集中させながら突如、東シナ海・尖閣諸島で軍事攻勢を謀る《中国の伝統的パターン》を警告してはいる。だが、そのシナリオは「日中紛争の勝者は中国、敗者は日本」だと、米国の世論に事実上訴えてしまった。いわく-
(1)海上での偶発的砲撃・銃撃で、戦端が開かれる。
(2)艦艇・航空機の損失が発生し、烈度が高まる。
(3)日中双方が戦力増強の動きを示すと、国際社会が調停に。
(4)米国の介入を嫌う中国と、外交解決に飛び付く日本の、双方で戦力の撤退、または縮小が図られ、国際社会も衝突回避を最優先に仲介を続ける。
(5)調停過程で、オバマ政権は日本に対し、米国の全面介入による日米共同防衛を要請せぬよう圧力をかける(実際、オバマ政権はロシアやイランとの対決・衝突を避けまくった)。
(6)調停で、日中両国の領有権主張は“対等”に扱われ、日本の統治・施政権は大幅に損なわれる。日本の《中国との間に領土問題は存在しない》との立場は破綻し、中国は有利な結果を得る。しかも、対日衝突は中国内の愛国主義を覚醒させ、経済停滞など国内の不満を緩和。半面、日本が抱く日米同盟への信頼を一気に下げる。同盟のほころびは、中国の東アジア覇権を大幅に拡大させる。
中国は、尖閣の領有権紛争を有利に持ち込むべく、米軍不在の軍事衝突危機を創り出そうと、本気で考えている。同時に、米国の一部識者は尖閣を「厄介モノ」と見なし始めた。日本政府は2012年、尖閣を国有化したが、直前に米国務省高官が「中国と事前協議するよう」日本に要請してきたとの観測は大当たりだろう。
「戦争に巻き込む」戦略を
確かに米太平洋軍司令官は1月27日、尖閣が「中国の攻撃を受ければ(安保条約に基づき)間違いなく防衛する」と、講演で明言した。バラク・オバマ大統領(54)も14年に同種の発言をしている。
ところが、安保条約第5条が適用され、米軍出動を可能にするには《日本施政下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が自国の平和・安全を危うくする》と認めることが大前提。ランドが絡んだ自衛隊VS中国軍交戦シナリオで、米国は腰を引き5条事態をほぼ認定しなかった。ハドソンに至っては、5条が完全に空証文だった。中国が最も望む日中軍事衝突パターンだ。
自衛隊VS中国軍の正面対決でさえ米軍が来援せぬのなら、海上保安庁VS中国海警局の海上警察対決で、米軍の出る幕はない。それ以前に、海上警察対決では、日本も《武力攻撃事態》と認定できない=つまり防衛出動を下令できない。自衛隊を投入し難い状況で、米軍が被侵略認定して出動する道理がない。海保の巡視船は、軍の特殊作戦部隊員が隠れている恐れも有る一万数千トンもの“重武装巨大公船”が領海侵入しても、放水もできず、ひたすら「領海から出なさい」と虚しく連呼するだけ。
そも、日本防衛(盾)は自衛隊の主任務で、米国に期待すべきは戦略的打撃力(矛)である。尖閣を含め国家主権を独力で守り抜く覚悟・戦力の向上に全力を挙げると共に、効果的外交・世論工作で日米同盟の空洞化が、いかに米国の国益を侵害するかを理解させ、同盟引き締めを図らねばならぬ。
「米国の戦争に巻き込まれる」とあおるのではなく、「米国を戦争に巻き込む」戦略こそ、日本に求められている。(政治部専門委員 野口裕之/SANKEI EXPRESS)
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