ところが《最も発生確率の高い事態》はいずれでもない。報告書が到達した結論はこうだ。《日本の国防力や日米同盟がもたらす抑止力をも圧倒する軍拡を背景に、日本との紛争・競合を、軍事力行使を経ずに中国が求める形で徐々に『侵食』し、有利に決着してしまう》
中国が日本に仕掛けている「三戦」を彷彿(ほうふつ)させる。国際や係争相手国の世論を工作し、反中政策を抑止・転換させる「世論戦」、恫喝(どうかつ)・懐柔で相手国の意志を挫(くじ)く「心理戦」、国内外の法律を利用し反中政策を抑え込む「法律戦」-から成る「三戦」。尖閣諸島(沖縄県石垣市)の問題に当てはめると、謀略の気配を身近に感じる。では、日米同盟として、どう対処すべきか。
中国の「三戦」に対処
(1)現在、米国防総省が進める『エア・シー・バトル=海空戦』に基づき、航空・海上優勢確保などを核とする配備を大規模・強化。中国に対する戦域的優位を維持する。海空戦は陸・海・空・宇宙・サイバー5空間の垣根を越え、同盟国の軍事力支援も含め、持てる戦力を効果的/立体的に運用。米空母打撃群が攻撃される前に、中国内陸部の基地攻撃まで視野にする攻勢的統合作戦だ。
(2)日米同盟は軍事優位を目指すものの、中国内陸部への爆撃など、予防攻撃的準備は回避。《均衡》の重点を、抑止力と信頼の双方に置く。
(3)中国との間で相互に領域接近を止め、後方配備への依存度を高める抑制の効いた防衛態勢を整える。西太平洋全域で、中国とより《均衡》のとれた協力的力関係を樹立する。