ベクトルが違う3提案に、小欄は衝撃を受けた。専門家が最も避けるべき、逃げ道を用意した、中国が如何様(いかよう)に出てきても弁解できる、“卑怯(ひきょう)”の誹(そし)りを免れぬ提案だったためだ。元国防総省日本部長や元国家安全保障会議アジア上級部長、中国軍研究者ら超党派の実務エキスパート9人が、数年かけ作成した力作なだけに意外でもあった。報告書は、もはや《全能の解決策は存在しない。当事者を全て一気に満足させ、軍事・政治面での理想的『均衡』をもたらす単一の対応は不可能》と、限界を告白してもいる。
確かに読み返すと、分析の難しさ故の複数提案ではあったが、3提案を情勢に応じ使い分け、最悪の結果を回避する狙いも感じた。そうであっても、使い分け=受け身の姿勢を見透かされ、中国ペースに翻弄される危険は払拭できない。
現状維持は不可能
縷縷(るる)記してきたように《日米》という表現が随所に在(あ)る。ただし、米国は西太平洋~南シナ海に至る権益を重大視しているが、より直接影響を受けるのは2つの海の間に浮かぶ日本。報告書も《戦略的『均衡』の変化を最も痛感させられるのは、自らの安全保障を米国との同盟関係に長年依存してきたアジアの経済大国・日本かもしれぬ》と看破する。それ故(ゆえ)《恐らく日本は(尖閣諸島は日米安全保障条約の適用範囲だと、米国の保証を欲したように)米国に一層しがみつく》とも分析する。
もっとも《(安全保障や日米同盟を非常に重視する)安倍政権でさえ、ワシントンの一部が期待する自国の安全保障の底上げや対米協力強化には限界がある》と悲観。その理由を《財政難や政治的麻痺(まひ)》と指摘する。