一方《日米両軍の役割・任務激変》も有り得る事態に直面しており《政治的障害が予見されようが、日米両国は政治・軍事面での新政策を真剣に講じなければならない》と警告する。《現在の経済・軍事的潮流を展望すれば、現行政策・戦略では長期的に、日米両国益に合致する安定した安全保障環境を保てない/現状維持は不可能なのが確実》だからだ。
ところで、報告書が列記した仮説の内《最も極端な事例》は以下だった。
《中国の日本周辺での軍事行動が激化し続ければ、日本をして経済・貿易面での対中傾斜を招きかねない。日米同盟や米国による抑止力依存に疑念も深める。日本の世論が日本独自の国防力強化を支持し、核武装への動きにつながる恐れもある》
この点に関連、報告書は《日米両国が中国の大軍拡に効果的に対処せねば、東アジア全体での深刻な政治・軍事危機を招き、同盟が弱体化し、地域全体の安定を『侵食』する》と謳(うた)う。
日米同盟が死活的である現実を、米国の専門家が認識している文脈ともとれる。それでも尚(なお)、米国の歴代知識・指導層が陰日向(かげひなた)に抱いてきた中国への「憧れ」は続くと、小欄は観(み)る。
「侵食」とは「(領土や市場を)次第に侵し呑(の)み込んでいく状態」も指す。同時に、報告書に登場する英語の侵食=ERODEには「(病気に体が)蝕(むしば)まれる」「(酸などが金属を)腐食する」という意味もある。
語意の持つ不気味に、米国はもっと戦慄しても良い。(政治部専門委員 野口裕之/SANKEI EXPRESS)