大切なのは職人の魂
エス・テー・デュポンの名を世界中に広めたアイテムの一つに、デザイン性と機能性を兼ね備えたライターがある。精密なデュポンのライターと言えば、ふたを開けるときに「キーン」という独特な音が響くことで知られる。ブランドが意図して作った音ではなかったが、ファンの間では最高品質の証としてこの音が認識されるようになった。
そんなブランドも、これまでの歩みは決して平坦なものではなかった。LVMHグループなどで成功を収めてきたクルベ氏がCEOに就任した2006年は、実は7年連続で赤字が続いている状態だったという。「このままでは生き残れない。多くの改革が必要だと感じました」
そこでクルベ氏は、1985年ごろからスタートしたプレタポルテ(高級既製服)の事業を全廃。一方で、ライターや筆記具の事業の再生を決意した。アトリエにあった設計図を引っ張り出し、これまでの歴史を紐解きながらモダンな解釈を加えたコレクションを開発。〝新生〟エス・テー・デュポンとして発表したところ、ファンからの反響は予想以上だった。