今まで私は、トランクにステッカーを一切貼らない主義だった。なんだかどの国に行ったかを知られるのが恥ずかしかったし、大事なトランクの持つ世界観をおとしめるんじゃないか、と大いに訝(いぶか)しんでいたからだ。それに貼ってみなければ、本当にそれがイケてるかどうか分からないし、貼ってしまえば取り返しがつかないし。旅行先で気に入ったステッカーを見つけるたび、荷物にならないからと購入していたくせに、貼るまでに至らなかったのには、そうした数々の理由があった。
それなのにこの日私は初めて、今なら別にいいかな、という気持ちになったのだ。何度か旅行したお陰で、深緑色のトランクが思った以上に使い込まれていたからかもしれない。私は、白いヨットを端っこに置いて、何度もこの位置でいいか確認したあと、あんまり考え込むとかえって作為的な雰囲気が出てしまうんじゃないかと思い直し、結局、そのあたり目掛けてポイと放り投げた場所に、ステッカーを貼り付けた。正解がよく分からなかったが、思いきってもう一枚も裏側に貼った。どうやらそれで、私の中で何かが崩壊してしまったらしかった。