「どこで映画の勉強を?」との問いには「NYの大学院と山形国際ドキュメンタリー映画祭(YIDFF)で集中的に学びました」と答えている。2年に1度YIDFFが開催される奇数年(今年は10月実施)には母校を訪ねる気持ちで山形に向う。世界から集まったえりすぐりの作品群にガンガン頭を殴られ、グラグラ心を揺さぶられ、あげく心地よい疲労感に包まれるという贅沢(ぜいたく)を味わう。それは私にとって毎日の忙しさに追われながら偏狭になりがちな価値観を壊し“社会を見る視力”と“世界の今を感じる五感”を回復させるリハビリなのだ。
一瞬で消えた先入観
YIDFFに初めて行ったのは1993年。TVのインタビュー番組のためHi-8ビデオカメラを買ったばかりの私にプロデューサーが薦めたのだ。「朝から晩までドキュメンタリー? あり得ない!」と渋々向かったが、初日ですっかりハマってしまい、食事の時間も惜しんで作品を見続けた。「重い、難しい、堅苦しい」だったドキュメンタリーに対する先入観は一瞬で消えた。安っぽい“客観”を装わず、徹底的に己の主観で観客とのQ&Aに挑む監督たちをみて、「これ、やりたいー!」と胸の中で叫んでいた。そして10年後、「ディア・ピョンヤン」(2005年)で監督として参加することになる。