米国の中東政策は、価値観を共有するイスラエルとの同盟を基本にして、そこにヨルダン、サウジアラビア、エジプト、トルコなど、欧米と共存共栄が可能な諸国との同盟関係を強化することによって成り立っていた。イランやシリアのような、国際的に確立されたゲームのルールを一方的に変更するような諸国のごり押しに対して、米国は力を行使してでも毅然(きぜん)と対応することによって、中東諸国間のバランスが保たれていた。
今回、米国がイランとシリアに対して、「棲み分け」政策、すなわち「事なかれ主義」に転換するというシグナルを送った。このことにサウジアラビアとエジプトが強い衝撃を受けている。米国がいかなる状況でも中東への軍事介入を行わないという見通しをイスラム原理主義過激派が持てば、かかる勢力がサウジアラビアとエジプトの政権転覆を図る。オバマ政権が作り出しつつある「力の空白」が中東の大混乱を招く危険がある。日本外務省の中東に関して、独自分析を行い、あり得べき危機に備えなくてはならない。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS)