特に大きな事件が起きるわけではない。生活に倦(う)んだ母・松枝に、外に出て行くことを熱望する妹・喜和。閉ざされた世界の中で生きるそれぞれの心理のうねりが、物語をすすめていく。
初の女性主人公
「現実の家族って、結構淡々としている。『愛している』って口に出したり、抱き合うなんてほとんどないんじゃないかな。特に昔はそうだったと思います」
そんな中、登瀬は周囲の反対を押し切って、女ながらに男の世界である櫛づくりの道を歩き出す。幼なじみとの恋、仕事への情熱、結婚…。作品では、16歳から32歳までの登瀬の半生をたどる。
これまでの作品では時代をたくましく駆け抜ける男たちを描いてきたが、女性を主人公にするのは、今作が初めて。「書きづらかったですね。動きも少ないですし…。意識したのは、心理を甘く書きすぎないように、ということ。何度も『甘すぎないよね?』と編集者に確認してました(笑)。個人的に、あんまりドラマチックな作品が好きではなくて…。全然関係ない所で、なぜかふっと泣けてしまう。そういうのが好きなんです。周りからは『もっと盛り上げてもいいんじゃない?』なんて言われるんですけど…」