作者の金指さんは1959年、寄木細工職人の数が激減し、伝統技術の衰退が危惧されていた時代に、この世界に入りました。当時の寄木細工は、色や木目の異なる木片を寄せ合わせて幾何学模様の種板をつくり、その表面を薄く削り出してできる「ズク」を、箱や花器などの木製品に貼り付けて模様や絵柄を楽しむものが主流でした。親方たちから、しっかりと基礎をたたき込まれながら、「人がやらないことをやってみたい」そればかりが頭にあったそうです。
親方のもとを離れ、下請けから独立した金指さんは、あえて寄木を施した木材から、ろくろや刃物を使って加工する「無垢の寄木細工」で独自路線を歩み始めます。以来今日まで「無垢」一筋の道を貫いてきたのは、常に持ち続けた「人と違うことを、常に新しいものを」というフロンティア精神です。これまでの技法ではできなかった曲線の表現、形は同じでも種板の切り出し方によって、一つ一つ表情を変える作品。「無垢」の技法は伝統に新たな側面を加えました。
箱根寄木細工は84年に国の伝統的工芸品に指定されましたが、現在、技術者は約50人。他の伝統工芸品と同様、後継者育成は急務といえます。しかし、金指ウッドクラフトでは、木々の微妙な色合いがつくる、ダイナミックでモダンな「無垢」の模様に惹(ひ)かれ、全国から若者たちが集い、そして巣立っていきます。