円空も一時期、三井寺に逗留し、水の神様である善女竜王(ぜんにょりゅうおう)像を彫った。その仏像が金堂にあり、金堂の横には天智、天武、持統の三天皇が産湯に用いたという霊泉が、いまもコンコンと湧き出している。琵琶湖とその周辺は、都を支える豊かな水の源泉だ。水が湧き出す場所には力が漲(みなぎ)るものだが、神秘的な音を出しながら湧き続ける霊泉はめずらしい。寺と神社にはそれぞれの信仰の形があると感じている。
寺には目に見える偶像が祀られ、神社には目に見えない祈りの場が用意されている。三井寺は、目に見えるものと見えないものが共存している。それが土地の力と重なり、唯一無二の雰囲気を漂わせている。
≪「陰翳礼讃」 自然光の美しさ≫
円珍は「霊骸(れいがい)」といわれる、頭頂が尖った独特の頭の形をしている。これは知恵や霊力が高い人物像を現しているそうだ。
滋賀県を代表する2つの寺、比叡山延暦寺と三井寺。比叡山が権力の象徴ならば、三井寺はその対抗勢力で、実際に三井寺は比叡山に焼き討ちにあい、集う人々も庶民のヒーローが多い。