弁慶の引き摺り鐘や、僕の興味をかきたてる相模坊天狗。室町時代、相模坊道了という僧が三井寺の勧学院(かんがくいん)書院で密教の修行をしていたとき、突如として天狗となり窓から飛び出し、三井寺の樹齢1000年以上の老杉に止まり、夜明けとともに東の空に向かって飛び去ったという逸話がある。江戸の伝説的な彫刻職人、左甚五郎の龍の彫刻も残されている。
この龍は毎夜動き出し、琵琶湖周辺で悪事を繰り返していたそうで、甚五郎が龍の左目に鑿(のみ)を打ち込んで、その悪事を封じたという伝説まである。
明治の日本美術界の目撃者、アーネスト・フェノロサが長く滞在し、その墓があることでも知られる。この地ならではの尽きないエピソードの面白さに、つい引き込まれてしまう。
もうひとつ、三井寺に足を運んで感じたのが、「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」の美学だ。
光浄院の狩野山楽が描いたといわれる障壁画も、差し込む自然光がいったん床や畳や壁に当たり、反射してから襖絵に届く。闇のなかで光を放つ金色の奥ゆかしさ、墨色の漆黒の深さ。