そして、私が取材に行った8月31日、「ちょっと見て」と3回転ジャンプの中で最も難度の高いルッツを跳ぼうとするのですが、2回転しか回りません。
たしかにまだ筋力が戻ってきていなかったですし、ジャンプを踏み切る際の上半身と下半身の動きがバラバラでした。でも跳べる予感はありました。「もうワンテンポ待ってから、後ろに体を引っ張る感じで跳んでみたら」。当時の彼女にはコーチもおらず、指導者の視点からジャンプを見られる人がいなかったのです。
私が直感的に口にした後、転びはしたものの、2回転以上できなかったルッツが3回転になったのです。繰り返して、彼女はその場でルッツを着氷してみました。
逃げなかった
母になって復帰してきた美姫は、苦しいことから逃げなくなっていました。以前の彼女は少し調子が悪いと心が折れてしまう弱さも見られました。
昨年(2013年)11月に行われた全日本選手権の予選の東日本選手権では、ショートプログラムで出遅れ、フリーを棄権していてもおかしくないほど絶不調でした。でも、彼女はしっかりと巻き返して2位に入り、ソチ五輪出場をかけた年末の全日本に出場。そこでも最後まで滑り切るだけでなく、東日本からレベルアップしていました。