引退セレモニーで挨拶する竹本住大夫(すみたゆう右)=2014年5月26日午後、東京都千代田区の国立劇場(三尾郁恵撮影)【拡大】
住大夫さんの真骨頂は、文楽でもっとも大切な情を描くことだった。
20年近く住大夫さんの三味線を弾いてきた野澤錦糸さん(56)は「師匠の浄瑠璃を横で聞いていて、何度も涙がこぼれそうになった」という。
そのしみじみと味わい深い浄瑠璃は、壮絶な稽古のたまものだった。人間国宝になってからも、引退した兄弟子の竹本越路大夫(こしじだゆう)さんのもとに稽古に通い続けた。だからこそ弟子や後輩への稽古は厳しいが、57年に住大夫さんに入門した竹本文字久大夫(もじひさだゆう)さん(58)は「浄瑠璃の基本である音(おん)や息で情を伝えるという師匠の教えを、生涯学び続けていきたい」。引退後も稽古は続くそうで、「早速、27日から師匠のお宅で稽古です」という。
人間国宝に定年はない。だが、住大夫さんは「自分の芸に納得できなくなった」ことを理由に引退を決意したという。芸の厳しさを示したその引き際こそが、住大夫さんが文楽に残した最後で最大の置き土産かもしれない。(亀岡典子/SANKEI EXPRESS)