瞬間の記録を超えた意味=2013年11月30日(鋤田正義さん撮影)【拡大】
私の手は正直自分で見てもひょろりと細く、あまり健康的とはいえない。小さい頃から痩せっぽち、スポーツなんかで活躍した思い出も皆無、いつも部屋に籠って本を読んだり絵を描いたり、空想の世界にふけってばかりいた。
歌と出会い、ステージに立つようになった私は、それまで小さな自分だけの空間で育んだものをマイクに乗せて増幅し、客席に向けて放出する快感を知った。小さなマイクに向けて私が吹き込んだものが、爆風になって前方へ放たれる感覚だ。だから私は握りしめる。細腕に渾身(こんしん)の力を込めて。決して離さないように、夢中でマイクをつかんで歌うのだ。
撮りっ放しの脚力
キネマ倶楽部でライブをしたあの日、鋤田さんは早朝から現場に来て写真を撮っていた。写真界の巨匠と呼ばれる人が、ライブがあるからとひょっこり鴬谷に来てしまうフットワークの軽さにもびっくりだが、驚くべきはその脚力である。まだ会場設営もでき上がっていない時間から、ライブの閉演まで、ずっと撮りっ放しなのだ。2階席から撮る、1階席から撮る、ステージ袖から撮る、客の先頭に立って撮る。何かに取りつかれたように会場中から写真を撮り続けた鋤田さんは、おそらく相当な枚数を撮影したはずだ。その膨大な写真の中から、今回の写真をチョイスしたところが、「写真家鋤田正義」らしいなと私は思う。