九州出身の音楽アーティスト、黒木渚さん(鋤田正義さん撮影)【拡大】
思い返してみれば、私という人間は大人になればなるほど涙を流す回数が増えてきたように思う。
思春期、私はほとんど人前で泣かなかった。泣きたい場面も人並みにあったが、弱い人間だと思われるのも嫌だったし、何より感情の高ぶりを人に見られることが恥ずかしかったのだ。
私は日記を付け、精神状態のブレを平らにならす作業を何年間も続けていた。人前で取り乱したり、はしゃぎ過ぎることがないよう、自分で自分を監視していたようなものだ。
強い女に憧れていたせいもあるだろう。私は母の涙を見たことがない。日々の出来事に翻弄される自分の中身を悟られないように生きてきた私が、ある日音楽に出会った。そして表現して生きる道を選んだのだ。
ライブは人間くさい作業
音楽を続けているうちに分かったことがある。曲を作ることやライブをすることは、この上なく人間くさい作業だということだ。今まで私がしてきた努力とは真逆の方向ではないか。人さまに見られぬよう閉じ込めて押し殺してきたものこそ、私が表現すべきものなのだということに気がついた。