幼いころからSF作家を志していたという仁木稔(にき・みのる)さん。「ファンタジーを読んでいても、『これは地動説の世界なのか天動説の世界なのか』と設定が気になってしまう」と苦笑するほどのSF好きだ=2014年5月30日、東京都千代田区(塩塚夢撮影)【拡大】
【本の話をしよう】
SFの旗手、仁木稔(にき・みのる)さん(41)の5年ぶりの新作単行本『ミーチャ・ベリャーエフの子狐たち』が刊行された。「亜人」と呼ばれる人工生命体を蹂躙(じゅうりん)することで、人類は「絶対平和」を手に入れる-。1985年から、22世紀まで。数百年にわたる時間軸で暴力の構造をえぐりだす連作中編集だ。
起こりうる「苦しみ」
2004年のデビュー以降、舞台を共有する「HISTORIAシリーズ」を書き続けてきた。シリーズの基本設定の一つが、20世紀末から約2世紀間、人類を支配した巨大組織「遺伝子管理局」。その治世は「絶対平和」と呼ばれる。本作もその一つと位置づけられ、「絶対平和」の成立から衰退までの時代を扱っている。
今回収録された最初の物語の舞台は、「妖精(のちの『亜人』)」と呼ばれる人工生命体が労働現場で使役されている01年の米国(と推察される国家)。妖精を嫌悪し排斥運動に加わるケイシーだが、排斥運動にはある謀略が隠されていた-。