九州出身の音楽アーティスト、黒木渚さん=2014年6月1日、東京都渋谷区(鋤田正義さん撮影)【拡大】
非日常を演出
そもそも、照明というものを意識し始めたのはいつ頃だっただろうか。私が福岡のライブハウスで弾き語りを始めたころは、まだその重要さに気付いていなかったと思う。
生活照明と舞台照明の決定的な差は、支配力だ。蛍光灯の光が私たちの生活で意識されるのは「明るい」か「暗い」のどちらかに傾いた時だけだ。それは便利か不便かという単純な問題であり、それ以外のときには蛍光灯は何一つ主張することなくひっそりと私たちの生活を照らしている。しかしステージの上となると話は違う。光と色は場面を変える力を持つ。鋤田さんの一枚のように、そこらぢゅうを赤に染め上げて非日常的な光景を作ることもできる。一筋のスポットライトは演者を閉じ込める密室になることもある。私は照明を操る人もまたアーティストなのだと思う。色や形や濃度を変えて楽曲を彩る作業は、それを操作する人間の感性に大きく左右されるからだ。演奏に触発されて照明が変わり、光の変化でまた演者が刺激され…を繰り返してライブは進行していく。