わたしたちが雑誌や単行本で読んでいるマンガは、通常B4サイズに描かれた原稿が縮小されたものだ。作家は、その縮小率を計算し、印刷でつぶれそうな部分を省略したりしている。しかしながら、この時期の土田の原画は、そうした計算が一切なされていないかのような偏執的描き込みが特徴。とにかく目の前の紙に向かって1枚の絵を完成させることに夢中になっている作家の姿が目に浮かぶ。
第2期の大量生産時代を表現するため、この時期の作品を紹介する部屋は、壁から床までマンガの原画で埋め尽くされた。来場者は、土田の原画作品を踏みながら、文字通り土田世紀の世界の中で溺れているような酩酊(めいてい)感を感じることになるだろう。原画に染み込んだかすかなタバコの匂いは、マンガ原稿が、生きた人間によって創り出されていることも思い出させてくれる。
メッセージ性が前面に出てくる第3期の作品を紹介する部屋では、紹介する作品の全体のストーリーがある程度理解できるような展示が心がけられた。マンガの原画展でしばしば言われてきたのは、「物語」が分断されてしまっている、ということだ。第1の部屋では「絵」としての土田作品を観てもらうことが目的だったが、この部屋では、「物語」と、そこに表現されている「メッセージ」や「テーマ」を来場者に知ってもらうことこそが目的となっている。