師匠であり祖父である故・五代目柳家小さんの教え、座右の銘も“万事素直”でした。なぜ素直でいることが大事なのか? 師匠は「素直な人間は芸が伸びる」と口癖のように言っておりました。「はい!」と返事をして、その教えを軽んじないで取り組める人が良い。「いや」とか「でも」と言って言われたことをやってみることもなく、自分の理屈を並べたてている人は良くないと。特に師弟関係の場合、師匠の提案する課題に取り組めない人は伝承芸には不向きでしょう。問答無用という言葉がありますが、歌舞伎や能狂言も基本はそれで、伝統芸能のスタートはまず“学ぶこと”=“真似(まね)ること”から始まるのです。質問する前に演(や)ってみること。これが大切なんですね。そして素直な人はスッとふところへ飛び込んでいけますから、どんどん吸収していきます。
反対に素直さのない人は、真似ができないので土台、基礎がなかなか身に付きません。そしてそれを教える師匠の小さんももちろん素直な人でした。おおらかで優しくて、あの丸顔が円満さを表しているようでした。