生きている漆と向き合う
保井が乾漆に出合ったのは、大学院に進んだころ。それまでは固まりやすいプラスチック繊維(FRP)を使っていたが、もっと自然に近い材質はないかと考え、乾漆に思い当たった。
しかし、漆は「言うことを聞かない」クセのある素材。「思い通りの色をつけるのが難しいうえに、空気に触れるとどんどん黒ずむ」。あえて漆を使う理由について保井は「人も生きているが、漆も生きていて変化する。そして、何カ月もかけて作品と向き合うことに、意味や大切さがある」と、創作にかける時間の質の濃密さ、重さを挙げた。
だから、古い仏像が時代を経て、さらに威厳や味わいを増すように、自分の作品の自然な経年変化を素直に受け入れる。「自分が死んだあと、(色や形が)変化した作品を人がどう鑑賞するのかを想像してみることもある」