いにしえの仏像の目には、「玉眼」として水晶がはめ込まれた。保井の女性像の目では、白目に大理石、黒目には黒曜石がはめ込んである。衣装の模様には、シロチョウガイを磨いた板を貼り付ける伝統技術「螺鈿(らでん)」が駆使されている。
とはいっても、保井が目指すのは工芸職人でもなければ、装飾品の作家でもないところが興味深い。
保井が生みだそうとするのは、静謐さという“空気”だ。「何もない部屋に人がいるだけで、空気感が変わる。人は、そういう力を持っている。人が佇んだときの空気感に興味があり、それを表現したい」。つまり、女性像は空気感をつくる“装置”とも言える。
女性像のもう一つの特徴は、手をつくらないこと。手は存在するだけで、何かを表現してしまう。手をつくらず、直立させることで、「“何も主張しない”彫刻をつくる」。それを大学3年のときから約20年間続けてきた。