フランスのシャルル・ド・ゴール大統領(1890~1970年)のご機嫌を伺い、窮屈な公務を強いられるケリーの夫、モナコ大公レーニエ3世(1923~2005年)の否定的な描き方についても、モナコ公国側は不満を持ち、映画は事実と異なると批判する“場外乱闘”に発展した。映画は今年のカンヌ国際映画祭でオープニング作品に選ばれたが、3人の子供たちは誰もレッドカーペットに姿を見せなかった。歴史の解釈は当事者によって異なってしまうのは当然のことであり、ダアン監督は「一つの意見」として謙虚に胸に留めておく考えだ。
表現者としての矜持
ただ、あえて丸っきり事実ではない描写も挿入されている。巨匠、アルフレド・ヒチコック監督(1899~1980年)がモナコ公国にケリーを訪ね、新作映画への出演を打診する場面だ。「史実ではヒチコックは電話でケリーに出演を持ちかけました。ケリーは宮殿の中で退屈しきっていて、公務以外に何もすることがなかったと言ってもいい状況にありました。そこで寝た子を起こすヒチコックの役割が重要になってくるわけです。僕が描いたヒチコックはケリーに演技への情熱を再び取り戻させるための火付け役。彼がモナコにやってきて直接、ケリーに出演を口説く方が、ケリーの葛藤を示す象徴的な表現として大切だと考えたわけです」。 真実を描きたいという表現者としての矜持といっていい。