再開した練習でもジャンプは安定せず、肩で息をした。演技開始直前にはブライアン・オーサー・コーチから「ここでヒーローになる必要はないんだ」と棄権を促された。それでも羽生は「跳ぶ」と一声残してリンク中央へ滑り出た。
「オペラ座の怪人」。2度の4回転ジャンプなどで5度も転倒した。そのたび、歯を食いしばり、立ち上がった。顎のばんそうこうは、止まらぬ血でにじみ、色が変わっていた。
演技後半では3連続ジャンプを成功させた。会場中が泣いていた。ラストでは大歓声と拍手が湧き、数え切れないほどの花束が投げ込まれた。
演技後、右耳の上をホチキスで止め、顎は7針縫った。脳振盪(しんとう)を起こしていた可能性も考慮し、周囲や大会関係者が止めるべきだったとの声が高い。棄権すべきだったのだろう。だが羽生は底知れぬ強さ、侠気(おとこぎ)をみせた。華麗さを失わなかった。中国の観衆が感動した。
その事実は変わらない。