そう言って笑う謙虚な青年の視線は、すでに来年1月の「新春浅草歌舞伎」を見据えている。浅草歌舞伎といえば若手俳優の登竜門。「世代交代の新鮮さ、先輩が過去に演じてこられた浅草歌舞伎の残像と戦う新世代を、ぜひ見てほしい。力及ばなくても必死に張り合いたい」
次のお役は、平清盛の側室だった常盤御前(ときわごぜん)を妻にもらい受けて喜び、曲舞にうつつをぬかし阿呆(あほう)と噂されていた『一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)』一條大蔵長成。
「大蔵卿は20年間も本性を隠し、隙を全く見せず、阿呆を演じ続けた。平家全盛の時代、一門の目を欺き、源氏再興の機が熟すまで待ち、宝を守った」
現代の世に通じるのは-。
「自分の信念を曲げず、貫いた。阿呆のふりをし続け、常盤御前を守り通した。位が高いゆえ守ることができる、守るためならバカにされてもいい、と。信じられない強さだ」
大蔵卿を演じることは、「使命感がある。幸せなことと感謝しています」と力がこもる。「自分を出すのが苦手で、舞台でないと自分を出せない。天職だと感じています」とも。