まるで静寂の中からすくい取られたような美しい形状は、以前にもご紹介したデザイナー、猿山修氏による。その圧倒的な存在感を支えるのは、トーヨーキッチンスタイルに蓄積された高い技術力と、それに裏打ちされた誇りと探究心である。しかし、それ以上に大切にされたことは、使う側との「出会い」の演出であった。現物を目にしたときに思わず手を伸ばしてしまう美しさは、持ってみたいという衝動にかられる。一度手にすれば、人さし指と親指が持ち手の形状にすっとなじみ、使ってみたいという衝動へと続く。だからこそ、実際の切れ味を体感したとき、さらなる感動を得る。日本の技術が海外で高い評価を得ているといわれるが、“包丁”はそれを具体的に感じさせてくれる稀(まれ)な存在であろう。だがそうした商材において、あくまで高い技術は大前提でありながら、作り手の思いと使い手の体感をコミュニケートさせることに集中するトーヨーキッチンスタイルの姿勢に、日本のものづくりの未来を見た思いである。(企画プロデュース会社「丸若屋」代表 丸若裕俊(まるわか・ひろとし)/SANKEI EXPRESS)