ただ、箱根選手たちがここに至るまでの道程は、36年前の黒木さんと大きくは変わらないのだろう。1人約20キロをたすきをつないで走るシンプルな行為は変わっていない。監督もOBもなく、自分で自分を追い込むしかない。強靱(きょうじん)な精神力に昔も今もない。
最近、英国に住む黒木さんとメールをやりとりする機会があった。4年時に8区を走り終え、箱根駅伝を引退した日の感想を、こう教えてくれた。
「これでもう中村監督に怒られることもなく、減量に苦しむこともなく、陸上競技から足を洗って辛い練習をする必要もないと思うと、人生最良の夜でしたね」
黒木さんは陸上生活をすっぱりと終え、金融機関に就職。その後、国際金融、小説の世界で活躍する。青山学院大の高橋宗司選手も就職し、陸上から引退するという。何かに打ち込んだ人にしか分からない第二の人生を歩み始めるのだろう。「冬の喝采」の帯に書かれた、中村監督がよく言っていたという格言「若い頃に流さなかった汗は、年老いて涙となって流れる」が重く響く。(小川記代子/SANKEI EXPRESS)