「作品から僕らがいま読み取れる普遍的なものを出そうとした。仙台の皆さんには、つらい経験で広がった視野と深い思考がある。地域発の演劇には、その土地の文化としての豊かさがあり、仙台でこそ伝わるものがある」と長塚は話す。
稽古に何度も往復
舞台統括の鈴木拓さん(36)は仙台市の舞台制作会社ボクシーズの代表で、震災前から仙台で演劇活動に従事。震災後は復興事業に携わり、演劇による慰問などを行っていた。「ただ支援のあり方は風化していく。あれだけの経験をした僕らが仙台で表現し続けることに意味があり、10年後20年後にも残る力強い作品を作りたいと考えた。仙台は東京と違って批評の目もなく、ライバルと切磋琢磨(せっさたくま)する環境もない。だからこそ長塚さんの『熱量』が必要だった」と話す。
準備は1年がかり。オーディションで選んだ出演者は主に仙台市在住で、他の仕事と掛け持ちしている人も多い。稽古の都合上、上演は2チームに分けた。戯曲の発表当時の政治状況を持ち回りで調べて発表し合い、昨年夏には郊外の田んぼにカエルの観察会へ。耳に焼き付けた鳴き声は、そのまま冒頭で出演者が生で披露することとなる。