出発点は舞台女優
野沢は自ら進んで声優の道を歩んだわけではなく、出発点は劇団に所属する舞台女優だった。ただ、規模の小さい劇団に潤沢な資金はなく、マネジャーは新たな収入源を求めて、日本で放送が始まったばかりのテレビに目を向けた。
洋画の吹き替え放送だ。「私は生本番で少年役を演じました。生本番ということは、年端のいかない子供は使えず、『安心して任せられるから』といっても変声期を過ぎた青年も起用できません。だって、野太い声ではかわいくも何ともないですから」。
そこで「女性の声帯は少年の声帯に近いのでは?」と考えた当時のプロデューサーが、女性に白羽の矢を立て、オーディションを実施した。「何? 少年?」といぶかしく思いながらも、野沢も受けに行き、「幸か、不幸か…」受かってしまった。