【試乗インプレ】こんな人にお勧めしたいディーゼルSUV ボルボ「V60 クロスカントリー」(後編)
前編で舗装路などを試したボルボ「V60 クロスカントリー」のディーゼルターボモデル。今週はインテリアや使い勝手、そしてこのクルマの最大の持ち味であるオフロード性能をクローズアップする。気になる走りと総評は?(文・大竹信生 写真・瀧誠四郎)
4人乗車なら間違いなく快適
まずはインテリアと使い勝手から見ていこう。前編でも書いたが、V60 クロスカントリーは、スポーツワゴンのV60をベースとしたクロスオーバーSUVだ。ボディサイズは全長4640ミリ×全幅1865ミリ×全高1540ミリ。キャビンはエステートらしく、大人5人の満席状態でもしばらくは我慢できる広さを持っている。さすがに中長距離だとキツイが、4人なら間違いなく快適だ。肉厚シートの座面は前後に長く、太もも全体を膝までしっかりサポート。合計266キロの長距離ドライブでも体に疲労がたまることはなかった。
先日試乗したV40もそうだったが、ボルボのハンドルは実に握りやすい。両手にしっくりとなじむステアリング表面のカービングが実に秀逸だ。クルーズコントロールの操作スイッチや、インフォテインメント・システムの選択・決定をすべて右手親指で行えるジョグダイヤルが、ハンドルスポークにあるのは非常に便利だと感じた。ハンドルの重さは3段階で調節が可能。国産車のような軽めの設定も、筆者好みのBMWのような重めの設定も可能だ。
実用性◎のラゲッジルーム
助手席にも座ってみたが、レッグスペースにあまり奥行きがないのが気になった。どうもタイヤハウスが手前に張り出している感じがして、足を前に投げ出す余裕がないのだ。後席も試してみる。レッグスペースは十分な広さを確保していて窮屈さはない。ヘッドクリアランスはどうだろうか。サンルーフを開けた時にガラスを屋根の中にスライドさせるための収納スペースが一段下がっているが、ちょうどルーフの中央部分に格納されるため、後席に体を預けたときに頭部を干渉することはなかった。座席の背もたれは肩まで高さがあってサポート性は問題なさそうだ。
後席はレバーを引くだけで簡単に倒せるので、荷室の拡張を素早く簡単に行える。ラゲッジルームはさすがにエステートだけあって広いが、ルーフラインが後端に向けて緩やかに下がるデザインのため荷室の開口部、特に上部がすぼんでやや狭い気がした。とはいえ、荷室自体は広いので実用性は◎。これならキャンプ用具などたくさんの荷物を積めるし、後席をフルフラットに倒せば、大人2人が横になれるスペースもある。
シンプルなインテリア
内装のデザインはかなりシンプル。とくに高級感があるわけでもないが、品質の良さは部品を触るたびにしっかりと伝わってきた。手になじむハンドルや使い勝手抜群のジョグダイヤルなど、一つひとつを人間工学に基づいて考えながら、丁寧に作り上げている印象だ。ただ、センターコンソールのエアコン吹き出し口は納まりが悪い。モニター直下に横長の吹き出し口があるのに、なぜかモニターの左隣にも小さい吹き出し口が取って付けたようにあって、全体のバランスに違和感がある。V40はもっときれいに整理されており、洗練された印象を受けた。
非常に些細なことだが、運転席から左前方のワイパーが常に視界に入るのも気になった。写真を見ていただければ分かると思うが、何とかボンネットに隠すことはできないだろうか。
カーナビの音声認識は便利でもあり、不便でもあった。便利な点は、ステアリングの音声ボタンを押して「ナビ」「住所」などと話すだけで、カーナビのルート検索機能が起動することだ。ナビから住所を求められたら、都道府県名から番地まで住所を順番に伝えるだけで目的地を絞り込んでくれる。ただ、いかんせんナビが機械的に話すスピードや反応が遅いので、住所を絞り込むまでに2~3分はかかる。例えば『東京都千代田区大手町1-7-2』などと一発で伝えることができれば早いのだろうが、それだとナビが認識してくれない。『千代田区』『大手町』『1-7-2』を別々に伝えなくてはならない煩わしさがあり、地名を一つ言うたびに「千代田区でよろしいですか? よろしければ続きの住所を話してください」などと確認メッセージがゆ~っくりと入るので、なかなか先へ進まない。せっかちな人はだんだんとイライラが募ってくるはずだ。これなら電話番号検索などのほうがよっぽど早い。
車高200ミリという安心感
さて、V60 クロスカントリーをオフロードで走らせてみよう。神奈川県・相模湖周辺の県道に接した未舗装路や、山梨県・富士五湖の河口湖と西湖周辺を試してみた。ちなみに自動車メーカー主催のイベントで用意されるような本格オフロードコースを走るわけではないのであしからず。
相模湖で道路脇の未舗装路に入ってみたが、200ミリの車高に加えてアプローチアングル(クルマを横から見たときに、前輪の接地点とフロントバンパーの最前端部分を直線で結んだラインが作る地面からの角度)が大きいため、道路から一段盛り上がったオフロードに乗り上げる際にフロント下部を地面にこする心配は全くない。ごつごつとした石が落ちていても、車体の腹に当たるようなことは一切なかった。
富士五湖の湖畔でも、土と砂利が混じったサーフェースで走ってみた。デコボコした箇所もあるが、着座位置が高いので周囲の状況を把握しやすい。水辺は倒木や礫石(れきいし)といった障害物がその辺に転がっているが、ボトムが高いので引っかけることはほとんどないだろう。車高が200ミリもあれば、険しい山にでも入らない限り安心して走ることができる。ちなみにこれまで試乗インプレで紹介してきたSUVの最低地上高を見てみると、BMW X1=185ミリ、ベンツGLC=180ミリ、三菱アウトランダーPHEV=190ミリ、レクサスRX=200ミリといった感じ。こう比較してみると、いかにV60 クロスカントリーの車高が見た目以上に高いかが分かる。オフロード走破性の高さを決める要素はいくつかあるが、その中でも車高の高さはとても強力な武器となる。
低速域で生きてくる極太トルク
湖畔から県道に上がる土の斜面は、クルマの出入りが多いこともあって轍ができるなどかなり荒れていたが、ここで威力を発揮したのが強力トルクを誇るディーゼルエンジンだった。オフロードは地面のぬかるみや凹凸、障害物や傾斜があるため、速度を10~20キロ程度まで落として走る場面が多い。エンジン回転数が落ちると出力が低下するため、トルクが小さいと悪路でアクセルを踏んでもなかなか進んでくれない。だからといって一気に踏み込めば、急発進してヒヤッと…なんてことになりかねない。今回の斜面も、上がった先の県道が下から見えないので、突然発進すると非常に危険。その点、ボルボのディーゼルは低回転域のトルクが太いので、タイヤがくぼみや石につかえても、ちょっとアクセルを踏むだけで軽々と障害物を乗り越える力がある。低速度域におけるドライバーのアクセル感覚と、その時に予測したクルマの動きにズレがないことは、オフロードを安全に気持ちよく走るうえで非常に大切なことだ。
V60 クロスカントリーで一つ残念なのは、ディーゼル車にAWD(全輪駆動システム)の設定がないことだ。車高の高さはもちろん、四輪駆動も走破性を飛躍的に高める絶対的アイテム。試乗車はFF(前輪駆動)ということもあり、グラベルでやや滑る時があった。普段から筆者が乗り慣れているAWDのレガシィ アウトバックは、悪路でも四輪のトルクとグリップが効いていて信頼感がとても高い。今後、V60 クロスカントリーのディーゼル車にも四駆の設定が追加されることをぜひ期待したい。
「スポーティー」と「悪路走破性」を両立
V60 クロスカントリーは想像するに、競合他社のスポーツワゴンやエステートよりもオフロード性能に優れ、ボルボXC60など全高の高い本格SUVよりもキビキビとスポーティーな走りを実現しているように思える。実際、ロードクリアランスが200ミリのクロカン仕様でも、パドルシフトを使ってコーナーを攻める走りがそこそこ楽しめた。本気でラフロードを楽しむならレクサスLXやトヨタ・ランドクルーザーをお勧めするが、V60に乗るだけでも普段の行動範囲が格段に広がることは確かだ。
ディーゼルはコスパも「イイね」
ディーゼル車はなかなか経済的でもある。もちろん、エンジンの大きさや性能など様々な条件が違うので単純に比較するのは難しいが、V60 クロスカントリーのディーゼル車の車両価格は494万円で、FFとAWDの違いこそあるが、同519万円のガソリン車より25万円も安い。燃費も非常に優秀だった。今回の試乗で266キロを走行して実燃費14.9キロ/リットルという好成績をマークしたが、年間1万キロを走ると仮定して、筆者が実際に給油した時の軽油価格112円/リットルで単純計算すると、年間の燃料代は10、000/14.9×112=7万5167円となる。対してV60のガソリン車(ハイオク)はカタログ燃費が12.6キロ/リットル。上記給油時のハイオク全国平均価格が135円/リットルだったので、年間燃料代は10万7142円の計算になる。単なる机上の計算に過ぎないが、その差額は1年で約3万2000円。ガソリン車の実燃費はカタログ値の7掛け前後になることを考えると、ディーゼル車の経済性はさらに際立つはずだ(ちなみに7掛けで計算すると年間のガソリン代は15万3000円で、ディーゼル車との差額は約7万8000円になる)。
V60のディーゼル車は、直噴式エンジンと多段式8速ATを採用することで燃費性能を向上させており、AWD&6速ATのガソリン車より車両重量が60キロも軽く、FFという点も燃費だけ見れば有利に働く。ちなみに試乗を終えて給油したら、3000円以下という安さだった。
こんな人にお勧めしたい
では、ディーゼル車はどんな人に向いているのか。エコカーといえば、日本ではハイブリッド(HV)が人気だが、燃費は良くても実際に乗ってみると走りが物足りなかったりする。存在感が増しているプラグイン・ハイブリッド(PHV)は燃費良く走るために、極力モーターで走ることが求められるが、EV走行を多用すれば航続距離がどんどん短くなる。三菱アウトランダーPHEVや新型プリウスPHVでも60キロ程度だ。EV用スタンドもまだまだ少ない。最近のクリーンディーゼルは「黒煙をモクモクと上げて環境に悪い」「カラカラとうるさい」といった従来のディーゼルエンジンの弱点もどんどん取り払われている。走りの楽しさを重視することはもちろん、環境への意識も高く、長距離を走る機会が多いユーザーにこそ、低燃費&クリーンでトルクも太いディーゼル車をお勧めしたい。今回のようにオフロード走行を伴うアウトドアにも打ってつけだ。
気になる総合評価は?
V60 クロスカントリーは泥だらけになって遊んできても、ボディの汚れをきれいに落とせば、オシャレな市街地にすんなりと溶け込むことのできる洗練されたスタイルを持っている。試乗車のボディカラーはホワイト系だったが、まず商用車と間違われることはないだろう(まあ、高級感のあるクリスタルホワイトパールだけど…)。低速域でも力強いディーゼルエンジンはソリッド感たっぷりで、オンロード/オフロードのどちらでも頼もしい存在だ。おまけに見た目に似合わないスポーティーさも手に入れている。前編で挙げた「利便性」「スポーツ性能」「走破性」はすべて備えていた。レガシィ アウトバックとの比較になるが、AWD設定がないということ以外にレガシィより劣るネガティブは見当たらなかったし、ボルボらしい安全装備には、考え抜かれたインテリジェンスが感じられた。ただ、やはりオフロード仕様ならディーゼルモデルにもAWDが欲しい。あと、500万円近くするクルマなら、インテリアにメルセデス・ベンツのCクラスのように「さすが!」と言わしめる高級感があると嬉しい。
全体的にはとても満足のいくクルマだ。筆者が2回旅行したノルウェーなど北欧では夏になると、サマーハウスと呼ばれる別荘で休暇を楽しむ人が多い。荷物をたくさん積んで高速道を飛ばし、海岸線や山道を気持ちよく駆け抜けるには、V60は非常に使い勝手のいい相棒となりそう。同じように自然が豊かな日本でも、様々なアウトドアをクロスオーバーSUVで楽しむことができる。ちなみにV60のVは「多様性」を意味するVersatilityから由来する。いろんな用途に対応できるのが強みだ。試乗後に意識して周りを見てみると、結構V60/V60 クロスカントリーが走っていることに気付いた。ちなみに筆者のお勧めカラーはオニキスブラックメタリック。赤いテールランプが一番引き立つし、何よりクールでカッコいいですよ!(産経ニュース/SankeiBiz共同取材)
■主なスペック ボルボ・V60 クロスカントリー D4 SE
全長×全幅×全高:4640×1865×1540ミリ
最低地上高:200ミリ
ホイールベース:2775ミリ
車両重量:1730キロ(サンルーフ付きは+10キロ)
エンジン:DOHC水冷直列4気筒ディーゼルターボ
総排気量:2.0リットル
タイヤサイズ:235/50R18
最高出力:140kW(190ps)/4250rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/1750~2500rpm
トランスミッション:8速AT
駆動:前2輪駆動式
車両本体価格:494万円
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