【試乗インプレ】オーナーのために作られた超高級コンバーチブル ロールス・ロイス「ドーン」

 
箱根の富士屋ホテルとロールス・ロイス「ドーン」

 今年最後の【試乗インプレ】を飾るのは、ロールス・ロイスの4シーター・コンバーチブル「ドーン」だ。青空が広がる12月中旬の箱根や都心のオフィス街を舞台に、真冬のオープン走行を敢行してドライブフィールをチェック。4000万円近い超高級車に乗る価値とは何なのか、庶民なりに考えてみた。(文・写真 大竹信生/SankeiBiz)

 「幽霊」を名乗らないドーン

 前回の「ゴースト」の記事でも触れたが、歴代のロールス・ロイスには『幽霊』にまつわる車名が多い。現行ラインアップでいえば、頂点に君臨する「ファントム」やスポーツクーペの「レイス」がそうだ。しかし、このレイスをベースに開発されたオープントップ・モデルのドーン(Dawn)は英語で「夜明け」を意味する。

 『長い夜が明ければ幽霊たちは姿を消し、日の光を浴びて目覚めたドーンが走り出す』

 このクルマはそんなメッセージを発しているのだろうかと、勝手に想像してみた。やはりドーンが一番輝くのは、ルーフを開けて走るときだろう。

 地下駐車場で待っていた広報車は、鮮やかなライトブルーのボディにシルバーのボンネットをかぶせた“インスタ映え”するツートーン仕立て。写真撮影にはもってこいのポップなカラーリングであると同時に、「これ、めちゃくちゃ目立つヤツじゃん! 乗るのにちょっと勇気がいるぞ」と一瞬たじろぎ、その威風堂々とした外観とド派手なカラーのギャップに思わず吹き出す。みんなが見ている前でぶつけるのだけは勘弁だ。

 ドーンを前にして「一体、どんな人がロールス・ロイスを買うのだろうか」などと考えてみた。「全てにおいて最高のものを作る」という同社の哲学に共感した人もいれば、ビジネスで成功した自分へのご褒美に購入する人もいるだろう。さらには「周りから見られている」という意識から、富裕層のマストアイテムとして所有する人もいるはずである。腕時計でいえば、スイスの「パテック・フィリップ」のような存在だ。ちなみに昨年の世界販売台数は4011台。内訳を見ると北米(30%)、欧州(25%)、中東(15%)の順番で、日本では223台が売れたそうだ。

 豪華絢爛のインテリア

 全長5285ミリ、全幅1947ミリ、ホイールベース3112ミリといった寸法や、6.6リッターV12ターボエンジンというスペックは、ベース車両のレイスと全く同じ。571馬力、780Nmなどの動力性能はレイスに一歩譲るものの、約2.6トンの巨体ながら0-100キロ加速を5秒フラット、最高時速250キロをたたき出すのだから、こちらもある意味「化け物」だ。見た目の華やかさなら間違いなくドーンが勝る。

 高級家具のようにがっしりと大きいレザーシートに収まり、観音開きのドアを閉めようとするが、グリップをつかもうにもドアの先端がかなり遠い。ここで腕をめいいっぱい伸ばして「よいしょー!」と閉めてはお里が知れる。ロールス・ロイスのドライバーは車内のボタンを押しながら電動でスマートに閉めるのだ(筆者はたまたま「DOOR」と書かれたボタンを見つけたため、その場で広報担当に確認することで恥をかかずに済んだ…!)。

 インテリアはとにかく豪華。中でもひと際目を引くのが、ダッシュボードからドアパネル、後席背後のリヤデッキまでキャビン内をぐるりと囲むウッドパネルだ。これだけ大胆かつ贅沢に木材を敷き詰めたクルマは恐らく他にないだろう。ちなみに広報車は「パルダオ」という高級木材を使用しているそうだ。ほかにも本革や金属パーツをふんだんに用いるなど、3つの異なる素材を見事に調和させている。一歩間違えれば下品ともとられかねない組み合わせだが、これらの素材を華麗で上品なパッケージに仕立てる職人たちの技巧には脱帽するばかりだ。内装に関しては職人らと直接相談することが可能で、どんなに細かい要望でも応えてくれるという。これは英語で「bespoke」(ビスポーク)と呼ばれるもので、ロールス・ロイスでは採寸して仕立てたスーツのように、自分のクルマをオーダーメードすることができる。

 純白のメーターや銀色のオーディオスピーカー、アナログ時計などの装飾品はどれも精巧で芸術美に溢れている。とにかく手や目に触れるものすべてが究極的に上質で、目が釘付けになるほどに美しい。ドーンに触れていると、「これはもはや『クルマ』という枠をはるかに超えた存在なのでは…」などと考え始めてしまう。これまで自分なりに培ってきた感覚や価値観といったすべてが根底から覆されるようで、積み重ねてきた経験がまったく評価軸として機能しない状態だ。「階級が違う」といったら語弊を招くかもしれないが、試乗を通して『クラス』という言葉を意識したのは初めてである。

 好奇の視線に晒され…いよいよ試乗

 さて、まずはルーフを閉じたまま試乗する。走り出しは高級シルクを撫でるようにスムーズ。地下駐車場から地上につながる急な上り坂も、少しアクセルを踏むだけで軽々と駆け上がる。とてつもなく強大なトルクを有するが、それすらも感じさせないほど何かを主張することもなく平然と走る。

 東京駅を出発点に神奈川県の箱根町を目指す。地上に出てから10秒も経たないうちに、助手席の小島記者が「みんなこっちを指さしてるよ」と爆笑。確かに欧米系の旅行者たちがこちらを“ガン見”している。高速道入口の代官町を目指して丸の内・大手町界隈のオフィス街をドライブするが、試乗中にこれだけ好奇の視線に晒されるのは初めての経験だ。ルーフを閉じた“変身前”の状態でも注目の的なのだから、「このファンキーな水色、どんだけ存在感あるんだよ!」という話である。

 高速道路に合流してアクセルを踏み込むと、一瞬で時速100キロに到達する。その圧倒的な瞬発力にもかかわらず、車内の静粛性は相当高いレベルで保たれている。しかもハードトップではなく、6層に重ねたファブリック製のソフトトップで覆われているにもかかわらず…だ。できればレイスに乗って直接比較してみたいとすら思った。

 重厚なボディは超がつくほど剛性が高く、「ドーンなら何があっても守ってくれる」と思わせるほど、キャビン内は常に安心感に包まれている。しかも、速度域を問わずに安定した静粛性を発揮。どこまで速度を上げても挙動が乱れるようなこともないので、「スピードを出して走っている」という感覚があまり伝わってこない。窓の先に広がる景色が加速によってブレることなど皆無。前回のゴースト同様、ドーンの車内はいつだって穏やかだ。ゴーストとの相違点を挙げるならば、ドーンの足回りはスポーティーに振っているため乗り味が硬めだということ。道路の継ぎ目で突き上げを感じる瞬間もあるが、不快になるようなレベルのものではない。

 細めの大径ハンドルは低・中速度域ではふわりと軽く、高速走行になると反力が増してぐっと引き締まる。ホイールベースの長さを生かした直進安定性は特筆ものだ。サルーンのゴーストよりもロードインフォメーション(路面状況)の入力が多めでダイレクト感があるので、ハンドルを連続して切るような場面では、より刺激的なドライビングが楽しめる。

 ルーフを開けると…

 小田原厚木道路の小田原パーキングエリアで休憩を取り、いよいよルーフを開けてみる。センターコンソールのスイッチを押し続けると、頭上を覆っていた幌が後方に向かって動き始め、やがてリヤシートの背後に静かに消えていった。この間わずか20秒。時速50キロまでなら走行中でも開閉ができるそうだ。

 この日はオープン走行には最高の上天気(というか、数日前に天気予報をチェックしてから広報車を手配)。ここから先は小島記者と交互にドライブする。風の巻き込みを防ぐため、窓は閉めた状態だ。一部読者は「真冬にオープンカーで…」と思うかもしれないが、実はこのくらいの季節の方が快適だったりする。経験者は分かると思うが、太陽がじりじりと照り付ける真夏のオープン走行はまさに地獄。逆に、寒い時期でもルーフを開けて窓を閉め、暖房を全開にして走ると車内はかなり暖かくて気持ちがいい(小島記者はこれをよく「露天風呂」に例えている)。

 とはいえ、高速道でのオープン走行はそれなりに乱気流が発生する。ちなみに小島記者が所有するコンバーチブルの方が、風の巻き込みは少ないそうだ。この手のクルマでは仕方のないことではあるが、とくに後席は強い風が舞うため、女性を乗せるときは助手席をお勧めしたい。

 よりオープン走行を満喫できるのは、一般道に降りたときだ。車速の低下とともに風の巻き込みは軽減され、車内の快適性が一段とアップする。箱根の山の美味しい空気や木々のにおいに酔いしれ、頭上には抜けるようなきれいな青空が広がる。普段からコンバーチブルを運転する小島記者でさえ、「こんな景色、見たことないよ」と満面の笑みを浮かべている。キャビンが大きい4シーターの後席から見上げる空は、ピラー(窓の柱)など視界を遮るものは一切ないのだ。

 富士屋ホテルを訪れる

 ルーフを開けたドーンは豪華なキャビンも乗員の表情も露わとなるため、観光客の多い箱根では再び大注目を浴びることとなった。ここで変に恥ずかしがっても、逆にヘラヘラしていても見苦しいので、開放的な雰囲気や景色を楽しみながら堂々とドライブする。もうすぐ箱根駅伝の舞台となる東海道をゆったりと流していると、約140年の歴史を誇る「富士屋ホテル」に到着した。「ドーンを玄関前に止めて様になるホテルはここしかない!」と数日前に連絡したところ、ピークアワーを外すことを条件に撮影を快諾してくれたのだ。実際にドーンを止めてみると、どちらか一方が霞むこともなく、絶妙なバランスでお互いに引き立てあっている。

 ホテル従業員が一人、また一人と表に出てきてドーンを囲む。「これはカッコいいですね」とモテモテのドーン。そんなホテルマンたちを眺めながら、「こういう時にふと素の表情を見せるところが、高級ホテルなのに気取っていなくていいよね。でも、誰一人としてスマホで撮影しないところはさすがプロ」と小島記者。この辺の親しみやすさが、長きにわたって「富士屋ホテル」が愛され続ける所以なのだろう。ホテルの利用客もドーンに興味津々の様子で、写真に収める人もいる。とにかくドーンは人々を惹きつける力と、みんなを笑顔にするオーラがある。こんな貴重な体験ができるのも、きっとロールス・ロイスを所有する喜びなのだろう。

 運転中にこんなことも考えていた。「自分にこのクルマの価値が分かるのだろうか」と-。それでも個人的な感想を言わせてもらえれば、ドーンの最大の魅力は「自分らしさを表現できる唯一無二のオープンカー」だということだ。ラグジュアリーカーは高級・高性能でいわば当たり前。では、それ以外の付加価値は何なのか。その答えは「すべてをオーダーメードして、それを練達の職人たちが情熱とプライドを持って手作りしている」ということではないか。そこから生まれるのは、クラフツマンシップの流儀が息づく「本物の美しさ」と、完璧を求めるロールス・ロイス独自の世界観だ。

 広報車には1000万円分のオプションが加えられていた。「ほとんどのお客様は平均してこのくらい使われます」というから仰天だ。そこまでこだわりを持って作り上げたドーンに大切な仲間たちを乗せて、オープンカーでワクワク感に満ちた時間を共有すれば、同じ道を別のクルマで走るのとはまったく中身の違うストーリーを楽しむことができるだろう。

※あす31日は試乗インプレの編集チームが選ぶ「カー・オブ・ザ・イヤー2017」をお送りします。お楽しみに。

■主なスペック ロールス・ロイス ドーン(試乗車)

全長×全幅×全高:5285×1947×1502ミリ

ホイールベース:3112ミリ

車両重量:2560キロ

エンジン:ターボチャージャー付きV型12気筒

総排気量:6.6リットル

最高出力:420kW(571ps)/5250rpm

最大トルク:820Nm/1600~4750rpm

トランスミッション:8速AT

タイヤ:(前)255/40R21(後)285/35R21

駆動方式:後輪駆動

トランク容量:321リットル

定員:4名

最高速度:250キロ/h(リミッター制御)

ハンドル:右

燃費:5.94キロ/L(筆者が満タン法で計測)

車両本体価格:3740万円