細めの大径ハンドルを握り、ギアを「D」レンジに入れて発進させる。その巨体に似合わず、1ミリ程度の微細なアクセルワークも確実に加速につながるほど繊細に動くのだが、かといって過敏な印象は全く受けない。ジェントルに伸び上がる加速感はもちろん、上り坂でも意のままに操れる力強いトルク、ハンドル操作に忠実なダイレクトな走行感など、これまで経験したことのない極上のドライブフィールに一瞬で心を奪われてしまった。
ブラック・バッジは先述の通り、自ら運転する楽しさを訴求するハイパフォーマンスモデルである。0-100キロ加速は驚愕の4.8秒、最高速度250キロというスペックを見れば性能の高さは一目瞭然。高いコントロール性をもたらす21インチの低扁平&極太タイヤを履き、ホイールの外周にはカーボンを採用するこだわりようだ。アクセルを踏み込めばV12エンジンが躍動して瞬時に法定速度に達してしまう。これに8速ATと高性能ブレーキが組み合わされ、大型サルーンに似合わぬパワフルかつ俊敏な走りを披露する。圧倒的な動力性能はもはやスポーツカー並みだ。それなのに、どれだけ速く走ってもエンジンは低い音をかすかに立てる程度で、キャビンには常に優雅で快適な空気が流れている。試しに高速道で窓を開けた瞬間に「ゴーッ!」と風を巻き込む轟音が耳を貫いた。「外はこんなにうるさかったのか!」-。外界と車内空間を真っ二つに切り離すゴーストの高い静粛性には、もはや脱帽するしかない。
意外にも車両感覚はつかみやすく、取り回しに難儀する場面も地下駐車場を除けば少なかった。前方はボンネットの先端に立つロールス・ロイスのマスコット「スピリット・オブ・エクスタシー」がいい目印になるし、実は車幅も把握しやすい。試乗前に「さぞかしデカくて走りづらいんだろうなぁ」と緊張していたのがウソのよう。それよりも、むしろ気を使っていたのはゴーストの周りを走るクルマだったのかもしれない。「混雑時の車線変更ってこんなに楽だったっけ?」と感じるほど、ウインカーを出せばすぐに前に入れてくれるのだから。そういえば、車両借り出しの際に英国人の広報担当が「周りがよけてくれるから心配ないですよ!」と緊張をほぐしてくれたのを思い出した。よっぽどの自信がなければそんなセリフは出てこないと思うが、結果的には「まさにおっしゃる通り」だったわけだ。
ガソリンスタンドからは「お断り」!?
確かに他と比べれば大きいが…
途中からショーファー気分に浸りながら後席の小島記者に乗り心地を訪ねると、「いやー、素晴らしいね。気持ちよすぎて眠っちゃいそう」とご満悦の様子。しばらくすると、静寂な車内の後方から本当に寝息が聞こえてきた。ショーファーとして快適性を意識しながら運転していた筆者としては、たまらなく嬉しい瞬間だ。これは筆者の運転技術がもたらした結果ではなく、ロールス・ロイスだから快眠を誘えるのだ。
ロールス・ロイスを所有するオーナーの大半は、ビジネスで成功したような人たちだ。そんな彼らが愛用するゴーストはエントリーモデルとはいえ、他メーカーの高級セダンと比べると圧倒的に大きい。あまりピンとこないかもしれないが、ロールス・ロイスと肩を並べる超高級車、メルセデス・ベンツの「マイバッハ」とほぼ同じサイズである(ちなみに全長5465ミリ、全幅1915ミリ、全高1495ミリ)。地下駐車場では角を曲がるたびに神経を使ったし、ほとんどの機械式パーキングは全長・全幅でアウトだ。ガソリンスタンドに洗車で立ち寄ったときは、「この大きさだと止めるスペースが限られるので、混み合っているときは今後お断りさせていただくことがあります」とくぎを刺された。にもかかわらず、いったんサイズに慣れてしまえば、先述の通りほとんどの場面において運転に苦労することもなかった。「うちら庶民だからいいじゃん」と向かった某ファミリーレストランの駐車場では、ぎりぎり枠内に収めることもできた。富裕層がファミレスに行くかはさておき、ゴーストは後ろに乗っても運転しても非常に収まりの良い、扱いやすい高級サルーンなのだ。
優美かつダイナミックな佇まいと、濃密という意味でのリッチ感に満ちた最上級クラスの快適性とエレガントな設え。そんなラグジュアリー空間に身を置いて、ショーファードリブンによる至極の時を過ごしながら目的地へ向かう喜びは格別だ。ときにはオーナー自らハンドルを握って-。そんな贅沢な選択肢があるのがゴーストだ。
次回は4人乗りコンバーチブル「ドーン」を紹介する。お楽しみに。
■ロールス・ロイス ゴースト(ブラック・バッジ)
全長×全幅×全高:5399×1948×1550ミリ
ホイールベース:3295ミリ
車両重量:2490キロ
エンジン:ターボチャージャー付きV型12気筒
総排気量:6.6リットル
最高出力:450kW(612ps)/5250rpm
最大トルク:840Nm/1650~5000rpm
トランスミッション:8速AT
タイヤ:(前)255/40R21(後)285/35R21
駆動方式:後輪駆動
トランク容量:490リットル
定員:5名
最高速度:250キロ/h(リミッター制御)
ハンドル:右
燃費:6.01キロ/L(筆者が満タン法で計測)
車両本体価格:3890万円