サントリーには誰もやらなかったことに挑む「やってみなはれ」の創業精神があるとはいえ、こうした“奇手”といえる新サービスの背景にあるのは、自販機の長引く苦戦だ。
飲料総研のまとめでは、四半世紀前の平成7年、飲料の販売数量は14億4500万ケースで、このうち自販機での販売は6億9000万ケース。実に約半分(48%)を占めていた。
ところが安売りを仕掛けるスーパーや、コンビニエンスストアの出店拡大によって市場を奪われ、自販機販売は減少。22年に販売別シェアは自販機とスーパーが逆転し、29年には自販機のシェアは28%に縮小した。
同総研の宮下和浩取締役は「自販機の品ぞろえはスーパーやコンビニに劣る。スーパーにはセール、コンビニにはポイント付与もあり、値引きのない自販機は価格面でも対抗できない」と指摘する。
サントリーだけでなく、各社は自販機に新たな付加価値がなければ生き残りが難しいとの危機感を抱き、「自販機改革」に乗り出している。
アサヒ飲料は4月から、凍る直前のマイナス5度まで冷やした「三ツ矢サイダー」が楽しめる「氷点下自販機」の全国展開を始めた。シャリシャリした食感と爽快感が味わえるという、従来にはない演出が売りで、8月末までに500台を設置する。
伊藤園の一部自販機は、スマートフォン向けゲーム「ポケモン GO」の「ポケストップ」「ジム」として登場している。
ダイドードリンコは「レンタルアンブレラ」と称して傘を無償で貸し出す自販機約500台を設置するなど、各社は「あの手この手」で存在感をアピールしている。
各社の「飽くなき挑戦」で進化を続ける自販機は、果たして再び息を吹き返すのか-。その挑戦はまだ緒に就いたばかりだ。(柳原一哉)