韓国、いいとこ取り外交のツケ TPP交渉参加表明で米中“股裂き”

 

【漢江経済リポート】

 環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉で、韓国が日本をはじめ先行の交渉参加国と個別協議に入る方針を表明した。米国などとの自由貿易協定(FTA)の締結をめぐり、国論を二分する激しい内部葛藤を経験した韓国はTPPでも同様の反発が起きる可能性に配慮し、参加に消極姿勢だった。

 方針転換の裏には、米国主導の経済ブロックに参加することで防空識別圏の設定など突出する中国の覇権主義を牽制(けんせい)する狙いがあるとの見方が強い。ただ、中国への経済依存体質を急転換できないだけに、朴槿恵(パク・クネ)政権は外交・安保と経済関係という死活問題で米中2大国間の“股裂き”状態に苦しむ可能性がある。

 日本に助言要請

 「TPPに参加するかどうか、決定されたわけではない」

 11月29日の対外経済閣僚会議で、玄●錫(ヒョン・オソク)副首相兼企画財政相はこう語ったが、大統領府筋は「玄氏自身が朴槿恵大統領に参加を強く進言、推進の方向で了承を得ている。後戻りはできない」と指摘する。

 日韓関係筋も「表明に先だって韓国側から日本側に打診があった。各国間の貿易条件に関する情報収集や各国の反応について助言を要請しており、韓国側の必死さが伝わってきた」と明かす。

 韓国はFTAの網を世界中に広げる通商政策を取ってきた。TPPで先行する交渉参加国のうち、米国、ペルー、チリ、シンガポール、ブルネイ、ベトナム、マレーシアの7カ国が、韓国との2国間FTAか、韓国・ASEAN(東南アジア諸国連合)FTAの締結国だ。オーストラリア、ニュージーランド、カナダの3カ国とも交渉中か、開始が確定している。

 つまり、先行交渉参加国のうち韓国との貿易協定のめどが立っていないのは日本とメキシコの2カ国だけなのだ。

 このため、メディアや政界には「TPPは実質的に日韓FTA締結」(重工製造業界首脳)と反発や警戒がくすぶる。

 冷え込んだ日韓関係を理由に反日感情も高まっているが、それ以上に問題なのは競合する業種・産業分野が多く、相互に市場開放して貿易自由度を増せば、圧倒的に韓国の輸出産業に不利になることが目に見えているからだという。

 悩み抜いた結果といえるTPP事前協議への参加表明。背景のひとつは、韓国政府が自ら認める通り、先にTPP参加を決めた日本との市場獲得競争で後れを取ることへの警戒心だったことは間違いない。しかし、韓国の外交筋によると、それ以上に大きいのは「中国への牽制」だという。

 防空識別圏で大慌て

 韓国政府はTPPを「アジア回帰戦略を明確にした米国が、中国を包囲し押さえ込む目的で形成する経済ブロック」と見てきた。

 中国は、韓国の貿易において約3割の比重を占め、対北朝鮮での安保上の依存度も高い。

 “米国一辺倒”といわれた李明博(イ・ミョンバク)政権との外交政策の違いを明確にする目的からも、朴政権は米中を「G2」と呼んで米中間でのバランスを維持、中国との安保・経済関係の結びつきを強め、対日強硬姿勢に活用してきた。TPPに消極的だった理由には「中国を刺激しかねない」との事情もある。

 だが、韓国にとって中国の覇権主義の強化は、想定外に早く強硬だった。韓国が将来の資源開発を念頭に海洋基地を設置している離於島上空も中国の防空識別圏に取り込まれたのだ。

 国内経済で成果が出ていない朴政権は、「外交安保」が唯一の売り。海洋権益を侵害され、ナショナリズムに火がつけば国内の支持基盤もおぼつかない。もっとも、自国単独で中国と対決する構図となって中国を刺激することもしたくない。

 「そう遠くない時期に安保で米国、経済で中国依存といいとこ取り外交をしたツケを払わされるときがくる」(元政府高官)との懸念も出ている。(ソウル 加藤達也)

 ●=日へんに午