民主政権の震災対応いまこそ検証を 菅氏以外が首相ならもっと早く復旧進んだ?

 

【阿比留瑠比の極言御免】

 発生から5年が経過した東日本大震災と東京電力福島第1原発事故について、自民党が当時の民主党政権の初動対応を検証する新組織を設置することになった。谷垣禎一幹事長は11日の記者会見でこう述べている。

 「5年たつとみんな少し冷静になってきて、いろいろな行政関係者などの発言も出てきている。『なるほど、そういうこともあったのか』と思うこともあり、しっかり検証し、経験を蓄積しておくことが必要だ」

 今後、松本純政調会長代理らを中心に作業に入り、数カ月で結論を出す方針だという。

 当時の菅直人政権の震災対応、特に被災者支援・救援のあり方に関しては、これまで十分に論じられてきたとはいえず、この動きを歓迎したい。官僚たちからはこれまで、こんな話を聞いてきた。

 「菅首相は地震発生から1週間かそこらは、原発事故にすべての意識が向いていて、被災者支援に頭が回っていなかった」

 「10日ぐらいたって菅首相から突然、電話がかかってきて『アブラアブラアブラ!』といきなり怒鳴られた。どうやら被災地のガソリン不足のことだろうと分かったが、私は担当部署員でも何でもなかった」

 ドタバタ菅政権

 菅氏らが、行政機関のどのボタンを押せば、物事がスムーズに進むかまるで分かっていなかったというエピソードは少なくない。

 震災発生から1カ月半が過ぎたころ、被災地出身の民主党の国会議員に「菅氏以外が首相だったら、もっと早く復旧は進んだのではないか」と疑問をぶつけたら、こんな率直な言葉が返ってきた。

 「私もそう思っている」

 折しもこの7月には、震災発生から5日間の首相官邸と被災地の様子を実録形式で描いた映画「太陽の蓋」も公開されるなど、震災対応検証の機運は高まっている。当時の政府関係者らに取材したとされ、官邸政治家たちが実名で登場する。菅氏役を演じるのは俳優の三田村邦彦氏だ。

 佐藤太監督が9日付の自身のブログで、「あくまで中立の目線で制作させてもらいました」と記していることに注目している。

 ともあれ原発事故をめぐっては政府、国会、民間、東電の各事故調査委員会がそれぞれ報告書をまとめているが、どれも政治家個人の責任追及は甘かった。

 当初から「責任追及は目的としない」(畑村洋太郎委員長)と明言していた政府事故調だけでなく、「責任の所在を明らかにする」(黒川清委員長)と表明していた国会事故調も甚だ物足りなかった。

 国会事故調の報告書は原発事故の根源的原因を「人災」と位置づけたにもかかわらず、こう続けている。

 「『人災』を特定個人の過ちとして処理してしまう限り、問題の本質の解決策とはならず、失った国民の信頼回復は実現できない」

 当然、こうした姿勢には海外から「誰がミスを犯したのかを特定していない」(米通信社)、「問題は人がした選択だ」(英紙)などと批判が相次いだ。自民党の検証には、個々の政治家の責任追及から逃げない姿勢を望みたい。

 解せぬ朝日報道

 解せないのは、自民党の検証組織立ち上げを報じた12日付の朝日新聞記事である。「政局的な思惑」「与党内から批判的な声も」「民主党政権の対応より、事故全体の検証に力を」…などと否定的なトーンが目立つが、民主党政権の震災対応を検証されて、朝日に何か不都合なことでもあるのかしらん。

(論説委員兼政治部編集委員)