高額マンション根強い人気 バブル以来の坪単価1千万円も
公示地価22日発表された平成28年の公示地価で住宅地は全国平均で下落幅を縮め、三大都市圏は上昇した。富裕層向け高額マンションの人気が根強く、住宅地の価格を下支えしている。ただ、一般消費者が手を出しにくくなっているほか、不動産業界の間では、株安などの経済変調に伴う市況への影響を懸念する声も出始めた。
(伊藤俊祐)
建築費の高騰や国内外の富裕層による積極的な投資活動によって、首都圏マンション価格は上昇が続いている。東京都心部やブランド力が優れた街だけではなく、郊外でも適正価格を大幅に上回る土地取引が行われている。
リクルート住まいカンパニーの「住みたい街ランキング」で着実に順位を上げているのが、再開発が進む武蔵小杉(川崎市中原区)。24年は15位だったが28年は4位だった。主婦の間で人気が高い商業施設が原動力となり、おしゃれで新しい街のイメージが定着した点が要因だ。しかし、新築マンション市場では、手が届きにくい価格帯が形成されつつある。
住友不動産が販売する地上53階建ての免震型タワーマンション「シティタワー武蔵小杉」。住戸によっては1坪(3・3平方メートル)当たりの分譲単価が400万円を超える。高級物件がひしめく東京都港区の数年前と匹敵する価格帯だ。
それでも東京都心部に本社を置く金融機関に勤めるファミリー層を中心に人気は高い。総戸数は800。すでに約6割の住戸が契約済みで、菅井一樹・武蔵小杉マンションギャラリー主任は「これから1年半かけて売り切る」と自信を示す。
都心部の超高層マンションに対するニーズも依然として根強い。代表的な事例が、昨年11月に三井不動産が発売した地上44階建ての「パークコート 赤坂檜町 ザ タワー」(東京都港区)だ。販売戸数は163で平均価格は2億6400万円。坪単価は平均で約1千万円とバブル崩壊後の物件としては初めて大台に達した。それだけ高価な物件にもかかわらず、東京ミッドタウンに近いという抜群のロケーションを武器に全住戸に申し込みがあった。
郊外でも「マンション開発に適した広い土地は高値で取引されている」(不動産会社の担当者)。多摩地区の旧官舎があった場所の入札では、周辺よりも約3割高い価格で大手デベロッパー(不動産開発会社)が競り落とした。
こうした動きを背景にマンション価格は上昇を続けている。不動産経済研究所(東京都新宿区)によると、2月に首都圏で発売された物件の平均価格は5千773万円。9カ月連続の上昇となった。これに対し、一般的なファミリー層は価格上昇についていけず購入意欲が鈍っている。
この状況は、前回の価格上昇局面の終盤に当たる20年頃と酷似している。当時はリーマン・ショックが契機となって反落したが、「『同じような事態が再び訪れるはず』といった危機感を抱き、高値が予想される入札競争には参加しないデベロッパーが顕著に増えてきた」と別の不動産会社の仕入れ担当者は指摘する。
都心部の超高層マンションの市場環境も楽観できない。「シンガポールや香港、台北、上海に建つ物件に比べると割安感は大きい。まだまだ投資活動は活発化するはず」という見方がある半面、年明け以降の急激な円高や株安で投資家の心理が冷え込む可能性も捨てきれない。
また、高層マンションを使った相続税の節税防止に向け、課税強化が適用されれば売れ行きにブレーキがかかるのは必至。一連のシナリオが現実味を帯びた場合、地価の押し下げ要因につながる可能性もある。
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