パナマ文書に戦々恐々 匿名性求め徘徊するお金、核心は動機
高論卓説中米パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」から流出した膨大な顧客データが世界を揺さぶっている。従業員500人足らずながら世界40カ国に拠点を持ち、世界の大手金融機関と提携するモサック・フォンセカは、世界の要人や富裕層、企業など約30万もの顧客に租税回避のサービスを提供している。
厳格な守秘義務を負う法律事務所の顧客データが流出すること自体前代未聞だが、俗に「パナマ文書」と呼ばれる同データには、イギリスのキャメロン首相やロシアのプーチン大統領の友人、中国の習近平国家主席の義理の兄など、現役の首相や首脳経験者ら12人の関与が明らかになっている。舞台がオフショアと呼ばれる非居住者が匿名で法人を設立することができる特別な地域であることに加え、モサック・フォンセカがタックスヘイブン(租税回避地)に強い「世界の五指に入るペーパーカンパニーの卸売問屋」(外資系金融機関幹部)であることから、これら要人や富裕層は自国の高い税金を逃れるためにタックスヘイブンにペーパーカンパニーを設けて、租税回避を図っていたとの疑念が持たれている。
このパナマ文書が明るみになった時に、まず筆者の脳裏をよぎったのは、かつて日本企業に損失隠しという名の“粉飾”を手助けした外資系金融機関の行為だった。時計の針は1990年代後半まで巻き戻さなければならない。
1980年代後半のバブル経済に踊った日本の企業は、「財テク」と呼ばれる投機に奔走した。財テクの儲けが本業を大きく上回る企業が続出し、財テクの巧拙が株価を左右する時代だった。
しかし、90年以降の金融引き締めと金融機関の融資を抑制する総量規制などの導入によりバブルはあっけなく崩壊し、後には多額の損失が残った。本業を上回る収益を上げるほどリスクを取った投機だっただけに、損失額は資産額を超えるほど膨れ上がり、企業の中には損失の隠蔽や処理の先送りを決め込むところも少なくなかった。そこに目を付けたのが金融技能に優れた外資系金融機関の面々だった。
中心となったのは日本に進出していた外資系証券や信託銀行であった。これら外資系金融機関はグループの機能を総動員して企業の損失の隠蔽(いんぺい)や先送りを手助けした。デリバティブ(派生商品)を駆使して利益を先食いする一方、損失は先送りするといったスキーム(仕組み)が横行した。そのスキームの中核にあったのが信託機能だった。匿名性を持つ「管理信託」などの器を介するスキームが作られ、損失は隠蔽・先送りされた。まさに「信託」はブラックボックスとして利用されたわけだ。
これに対し、日本の信託業界からは信託機能を悪用するもので、信託本来の意義を逸脱するものとの反発が噴出したが後の祭りだった。外資系金融機関の甘言にのった企業の多くは経営破綻へと転がっていった。
その後、これら外資系金融機関は金融当局から行政処分を受けるなどし、当該スキームは崩壊した。しかし、「信託」の器は「特別目的会社」(ペーパーカンパニー)という新たな器へと転換し、ブラックボックスは温存していく。
パナマ文書が炙り出すのは、こうした「匿名性」を求めて、お金が世界を徘徊しているという現実ではなかろうか。仕組み自体は合法であっても「隠す」行為に変わりはない。問題の本質は隠すべき動機であろう。
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【プロフィル】森岡英樹
もりおか・ひでき ジャーナリスト 早大卒。経済紙記者、米国のコンサルタント会社アドバイザー、埼玉県芸術文化振興財団常務理事を経て2004年に独立。58歳。福岡県出身。
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