円高株安に対応求める声 日銀には追加金融緩和、政府には円売り介入 輸出企業には警戒感

 
1ドル=106円台で推移する円相場を示す東京外国為替市場のボード。円高・株安が進んでいる=6日午前、東京都港区の外為どっとコム(山崎冬紘撮影)

 6日の円相場は一時1ドル=106円台まで急伸し、日経平均株価は反落した。円高株安は足取りの弱い日本経済に打撃を与えかねず、市場では政府・日銀に対応を求める声が上がった。(藤原章裕、中村智隆、平尾孝)

 日銀に追加の金融緩和を求める声が再び強まってきた。円高で企業や家計のマインドが悪化すれば、「平成29年度中」を目指す2%物価目標の達成が遠のくからだ。ただ、市場では国債を大量購入する「大規模金融緩和」の限界論も意識され始めた。

 「限界に近づいている」

 三菱UFJモルガン・スタンレー証券の稲留克俊氏は、日銀が6月の超長期国債(満期までの期間が10年を超える国債)買い入れ額を前月比2千億円程度減らしたことについて、こう分析した。

 日銀は現在、国債の保有残高を時価ベースで年80兆円積み増しているが、保有する国債の償還分も穴埋めしなければならず、今年の国債購入額は120兆円規模に膨らむ見通しだ。

 時価上昇分を勘案した場合、稲留氏の試算では月9・65兆円の買い入れが必要だが、6月は超長期債を減らした影響で9・53兆円にとどまるという。減額は4カ月連続で、国債の大量購入が厳しくなってきたことを示唆する。

 稲留氏は「国債を買い増す追加緩和は(予定した額の国債を買えない)『札割れ』リスクを高める」と懸念する。

 一方、野村証券の松沢中(なか)氏は、6月会合での追加緩和をメインシナリオに据える。

 松沢氏は、国債の買い入れ目標を「年70兆~90兆円」と柔軟化する代わりに、マイナス金利幅を0・1%から0・2%に深掘りする案などを有力視する。日銀が金融機関への貸し出しにも0・2%のマイナス金利を適用すれば、金融機関は、日銀からお金を借りるほど利息を受け取れるので、貸し出しを増やしやすいという。

 だが、マイナス金利の評判は芳しくなく深掘り効果は不透明。会合まで約1週間、日銀の苦悩は続く。

 菅義偉(すが・よしひで)官房長官は6日の記者会見で、円相場の急伸を受けて、「為替の急激な変動は望ましくない。為替市場の動向を緊張感を持って注視し、必要なときにはしっかりと対応していきたい」と述べ、円売り介入も辞さない姿勢を示すとともに、投資家による円買いの動きを牽制(けんせい)した。

 浅川雅嗣財務官も同日、記者団に対し「為替市場の動向を注視している」と述べた。

 円相場は5月上旬、日銀の追加金融緩和見送りをきっかけに、一時105円台まで円高ドル安が進んだ。日本にとって円高は輸出企業の収益減などに直結し、景気下押し圧力になる。

 麻生太郎財務相は同月21日の日米財務相会談で、為替相場について「最近は一方的に偏った投機的な動きがみられた」と発言。これに対し、ルー米財務長官はその後の記者会見で「秩序的だ」と述べ、見解の相違が鮮明になった。

 同月26~27日に開催された主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)では「基本的に為替の議論はなかった」(関係者)とされるが、オバマ米大統領は26日の記者会見で、「保護主義や競争的な通貨切り下げ、近隣窮乏化政策を避けることが重要」と述べた。

 日本はサミット議長国として各国に協調を呼びかける立場であったことから、市場では「サミットが終わるまで介入は難しい」とみられていた。

 このため今後、英国の欧州連合(EU)離脱問題などで1ドル=100円前後まで円高が加速すれば、日本も介入に踏み切るのではないかとの見方も根強い。

 しかし、米国としてもドル高は輸出企業にマイナス。大統領選を控え、対外的に強い姿勢で臨まざるを得ない事情もある。日米当局のさや当てが再燃する可能性が出てきた。

 1ドル=106円台後半まで急激に円高が進んだことに、国内企業は警戒感を強めている。

 輸出関連企業では、1~3月の金融市場の混乱や、4月下旬からの急激な円高を受け、昨年が1ドル=120円前後であった実績に対し、今期はすでに105円前後と「保守的に設定している」(トヨタ自動車広報部)ケースが多い。

 さらに円高が進むと、1円あたりでトヨタは400億円、三菱電機は20億円、新日鉄住金は10億~20億円の営業利益が吹き飛ぶ。

 円高によって、自動車などの輸出関連企業の国内生産は鈍ることになる。鉄鋼や素材メーカーでは、製品の供給が減少し、「間接的に悪影響が出る」(神戸製鋼所の梅原尚人副社長)懸念も出ている。

 1ドル=1円の円高で、営業利益が7億円減少する海運大手の日本郵船は、同110円としている今期の想定レートに対し、すでに「見直しも視野に入れる」(広報)という状況だ。

 逆に、円高のメリットを受けるのが、電力業界だ。原子力発電所が全面停止している東京電力ホールディングスは、1円の円高で燃料費を年間で120億円削減できる計算になる。

 ただ、国内の個人消費の回復遅れが指摘される中、輸出が悪化すれば、企業業績の下押し圧力となる。それが、消費マインドをさらに冷えこませることにつながる。日本経済全体でいけば、円高は大きな景気悪化要因になるのだ。