トランプ、クリントン両候補は「世紀の討論」で何を訴えたか
米大統領選「世紀の討論」と称された米大統領選の民主党候補、クリントン氏と共和党候補、トランプ氏による初のテレビ討論会。国際規模の外交・安全保障問題や経済のほか、女性の大統領としての「資質」の問題にも議論が及んだ。
■【安保】強調か孤立か鮮明
候補者討論会では、オバマ米大統領が2期8年間の任期で進めてきた国際協調主義の継続が議題となった。民主党のクリントン候補が同盟国や友好国との協力関係を重視してアジアや中東の安定を図る決意を語ったのに対し、共和党のトランプ候補はオバマ氏を批判。「米国第一」のスローガンの下、米国の守りを固める孤立主義的な姿勢を鮮明にした。
クリントン氏は、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)掃討への決意を語り、トランプ氏を「イスラム国家と協力しなければならないときにイスラム教徒を侮辱している」と批判した。イスラム教徒を入国禁止にするとの同氏の発言が念頭にある。
オバマ政権で国務長官を務めたクリントン氏は、アジア重視のリバランス(再均衡)戦略やイラン核協議に深く関わった。「軍事より外交」を掲げたオバマ氏に比べ、IS掃討作戦の強化を主張するなど軍事力の役割を重視する傾向が強いが、基調は単独行動を控える国際協調主義だ。
こうした「オバマ-クリントン」路線をトランプ氏は強く批判。「クリントン氏が経験があるといっても悪い経験だ。悪い経験を今後4年間、続ける余裕はない」として、オバマ路線の継承を強くけん制した。
トランプ氏は、ISの台頭は米軍のイラクからの完全撤退による力の空白が招いたと主張。サイバー攻撃に関し、「私たちにはロシアからか、中国からか分からない。オバマ氏の下、かつてあった支配力を失ったからだ」と述べた。
また、「トランプ政権」が誕生した際の同盟関係に対する日本の懸念を挙げ、「同盟国を助けたいが、私たちは巨額の金を失っている。世界の警察官であることはできない」と語った。(ヘンプステッド 加納宏幸)
■【貿易】TPP承認かわす
経済政策に関してトランプ氏は、クリントン氏が国務長官在任中に環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)を推進していたことを糾弾。一方のクリントン氏はトランプ氏の経済政策は富裕層優遇が狙いだとして、かえって雇用の喪失を招くと主張した。
「雇用が米国から流出している」。トランプ氏は討論会での最初の発言で、米国で進む製造業の衰退に焦点を当てた。トランプ氏はTPPはさらなる雇用流出を招くと批判。かつてTPPの旗振り役だったクリントン氏は「TPPを承認しようとしている」と指摘した。
これに対してクリントン氏は国務長官退任後、日米など12カ国が合意した内容には反対していると反論した。しかしトランプ氏は「それならオバマ大統領が過ちを犯したということか?」とたたみかけた。
トランプ氏が製造業にこだわるのは、米国経済の回復基調が続く中でも製造業は中国など新興国との競争で苦戦しているからだ。製造業での就業者数は1999年から2015年までの間で500万人も減少。自動車や鉄鋼産業の退潮が指摘されるオハイオ州やペンシルベニア州は大統領選の激戦州と位置づけられる。
しかし討論会ではクリントン氏が経済政策で攻勢に転じる場面もあった。トランプ氏が過去の破産で取引先に損失を与えたとして、実業家としての手腕や誠実さに疑問を投げかけた。(ワシントン 小雲規生)
■【女性】トランプ氏の失言突く
初の女性大統領を目指すクリントン氏は討論会でトランプ氏の女性蔑視の発言を取り上げ、女性から好まれない同氏の“弱点”を突いた。家族と仕事のバランスの問題などでは女性候補の強みもアピールした。
クリントン氏は真っ赤なスーツ姿で登場。顔色も良く見え、健康問題への不安を払拭することを狙った。
米国の繁栄に関する質問では、「きょうは孫の2歳の誕生日なので、未来のことをよく考える」と切り出し、男女間の賃金格差の解消や、適切な保育システムの確立などにも言及。トランプ氏に「スタミナがない」と攻撃されると、国務長官時代に112カ国を訪問したと切り返した。
またトランプ氏の「豚、バカ、犬」といった過去の女性に対する失言を紹介するなどして応酬した。
クリントン氏は2008年に民主党の指名獲得を目指し、オバマ現大統領に敗れた。この“失敗”から学んだことは多いという。
米ラトガース大の米女性と政治センターのデビー・ウォルシュ所長は、米軍の最高司令官でもある大統領の職は男性がふさわしいと考える人は多く、「女性の挑戦は課題がある」とした上で、「クリントン氏は08年の選挙でタフさや強さを強調し、女性であることを軽視していた」と語る。
だが、今回は「私の長所の一つは女性であること」と訴える。ウォルシュ氏は、「女性であることで多様な視野を持つことができた。タフさと女性としての経験の両方をアピールできている」と評価した。(ニューヨーク 上塚真由)
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