習近平党政権はトランプ米強硬策に耐えられるか
田村秀男の経済から世界を読む中国共産党案を国家政策として承認するための全国人民代表大会(全人代)が5日、開幕した。タイミングを合わせるかのように、トランプ米政権は矢継ぎ早に通商と軍事の両面で対中強硬策を繰り出した。習近平党政権は耐えられるか。
◆中国鉄鋼に制裁課税
2月末、米商務長官に就任したウィルバー・ロス氏は中国を「最も保護主義的」と名指しし、「準備が出来次第、対中具体策を発表する」と言明。トランプ大統領は国防費の前年度比10%増額方針を議会に提示した。
3月1日にホワイトハウスは、世界貿易機関(WTO)ルールに束縛されずに米通商法報復条項(301条)を発動する「2017年大統領の通商政策」を発表し、3日には中国の鉄鋼製品への制裁課税を決めた。これらは大統領直属の国家通商会議(NTC)のピーター・ナバロ委員長が作成中の通商・通貨と軍事一体の対中強硬策の前触れだ。
習政権は軍事支出の増額を打ち出すが、軍拡予算を裏付ける経済力に不安を抱える。経済成長率目標は6.5%前後に落ち込む一方で、国内総生産(GDP)の10%近くの資金が海外に流出している。
思い起こすのは1980年代のレーガン政権の対ソ連強硬策である。レーガン大統領はアフガニスタン侵攻など対外膨張政策を展開するソ連に対抗し、戦略防衛構想(通称「スターウォーズ」)を打ち出すと同時に、高金利・ドル高政策をとって石油価格を数年間で3分の1に急落させた。国家収入をエネルギー輸出に頼るソ連は軍拡競争に耐えられず弱体化し、90年代初めに崩壊した。
トランプ政権もまた、中国の弱点を確実に衝いてくる。貿易面での制裁が対米輸出に打撃を与えるばかりではない。米株高と連邦準備制度理事会(FRB)による利上げは中国からの資本逃避を促す。
◆実質は対外債務国
中国人民銀行は人民元防衛のために外貨準備を取り崩す。3兆ドル弱の外準は中国の対外負債4.7兆ドルを大きく下回り、実質的には対外債務国だ。アジアインフラ投資銀行(AIIB)を主導し、全アジアを北京の影響下に置こうとするもくろみは危うい。
グラフは、中国からの資金流出と米株価の推移である。昨年秋からの米株価の上昇は「トランプ・ラリー」と呼ばれる。トランプ氏のインフラ投資、法人税減税路線の先取りによるとの見方だが、実際には中国の逃避マネーによって押し上げられた株価が飛躍したようだ。中国からの資金流出額は昨年12月には2895億ドル(昨年10~12月の合計額)と、半年前の1508億ドル(昨年4~6月の合計額)から約2倍に膨らんだ。この間に米株価は1200ドル弱上昇した。トランプ政権は図らずも中国のマネーパワーを吸い取っている。
北京は資金流出や人民元暴落阻止に向け、旅行者による海外での「爆買い」禁止などを打ち出しているが、小手先では対応仕切れない。金融を引き締めると国内景気が持たない。逆に、銀行融資を急増させて不動産相場の下支えや地方政府のインフラ投資の後押しに躍起になっているが、結果は地方政府や企業債務の膨張、すなわち人民元マネーバブルであり、暴落不安がつきまとう。習近平党総書記(国家主席)は全人代でどんな答えを示すだろうか。(産経新聞特別記者)
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