「聖域なき関税撤廃」は反対だ-。自民党は昨年末の衆院選で環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉参加に慎重姿勢を掲げた。その後、安倍晋三政権は交渉参加を決断、「聖域」とした農産物の重要5分野にも関税撤廃の波が押し寄せている。にもかかわらず、党農林族にかつてのような抵抗はみられない。TPPのほか生産調整(減反)見直しと、日本の農業の根幹を揺るがす重大局面を迎えても動きが目立たないのはなぜか。(岡田浩明)
■“変節”
「日本の農業を弱くしたのは誰の責任だ。1番は農林族といわれる政治家の責任、2番は農林官僚だ。3番は農業団体の指導者の責任だ。罵声が飛んでもひるみません」
1日、宇都宮市で講演した自民党の西川公也・TPP対策委員長はこう言い切った。自己否定ともいえる発言だ。
西川氏は麻生太郎政権の平成21年、当時の石破茂農林水産相が生産調整をするかどうかの判断を各農家に委ねる「減反選択制」を打ち出した際、他の農林族議員とともに「生産調整は堅持だ」と猛反対した。
それが今では、TPP交渉で石破幹事長と二人三脚で党内を仕切る。菅(すが)義(よし)偉(ひで)官房長官と頻繁に電話でやりとりするなど首相官邸サイドとも連携、「官邸の毒まんじゅうを食った」との批判も意に介さない。
最近、西川氏の言動にしびれを切らし「もう黙っているわけにはいかない」と直訴する農水省出身の若手議員には「何を言っているんだ。君たちが何もしなかったからじゃないか」と一喝したほどだ。