【ワシントン=小雲規生】環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の日米協議で、訪米中の大江博首席交渉官代理は15日の記者会見で「霧が晴れてきて、頂上が見えてきた」と述べ、日米の相互理解が進んでいるとの見方を示した。ただし、日米間の溝が大きい分野が残されていることも事実で、協議の進展に不透明感も残されている。
大江氏は14日から2日間、米通商代表部(USTR)のカトラー次席代表代行と協議した。牛肉や豚肉など農産品の重要5分野について話し合い、米国からの輸入急増時に関税を引き上げる緊急輸入制限(セーフガード)のあり方などについて「共同作業」で解決策を探った。また、日米は4、5日にワシントンで改めて協議することでも一致。大江氏は「数カ月の間にまとめたい」と述べ、進展に意欲をみせている。
ただし、関税の引き下げ幅などについては、日米の隔たりが依然として残っている。背景にあるのは豚肉の生産者団体など米畜産業界の反発と、それを踏まえた議会の強硬姿勢だ。
米国の通商関係者との意見交換のために訪米中の自民党の西川公也TPP対策委員長は15日、フロマンUSTR代表と面会し、記者会見で「良い雰囲気だった」と満足感を示した。しかし、通商交渉に影響力を持つ下院歳入委員会のニューネス貿易小委員長との面会については「全部関税をなくして自由貿易をやるという考え方だった」と述べ、意見の隔たりが埋まらなかったことを示唆した。
米国の畜産業界には「日本に関税撤廃の例外扱いを認めれば、将来の自由貿易協定交渉で中国やフィリピンなども同様の扱いを求めるようになる」との警戒感がある。中間選挙の資金集めに躍起になる議員らもロビー活動に積極的な畜産業界の期待を裏切るわけにはいかない。
TPPの発効には議会の承認が必要で、米国は議会の意向を無視して日米協議を進めることはできない。米国が節目と位置づける11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会合を控え、日米協議は正念場を迎えている。