「品質と安全性を求める芽室の牛を国外の消費者に届けたい」と大野ファームの大野泰裕社長は意気込む=北海道芽室町(西村利也撮影)【拡大】
■国際競争力持つ農家育成必要
国内最大の干拓地として知られる秋田県大潟村。広大な沃野(よくや)に見渡す限り水田が広がる。ここに、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉の合意で国内農業が迎えた新時代を生き抜く覚悟を固めた農業経営者がいる。コメ販売会社「大潟村あきたこまち生産者協会」の涌井徹社長だ。
「TPPという外圧をてこに、農業の抜本改革を進めるべきだ」。涌井氏はTPPによる国内農業の危機を農業再生の好機に転じる必要性を訴える。
涌井氏は1970年に21歳で両親とともに新潟県十日町市から大潟村に入植。87年にあきたこまち生産者協会を設立し、大潟村の農家がつくるコメの産地直送販売のほか、加工米やコメ加工食品の製造・販売を手掛けてきた。農産物の生産から加工・販売まで扱う「6次産業化」の先駆けともいえる存在だ。
米アトランタで5日まで開かれたTPP交渉の閣僚会合で、日本は輸入米にかける1キロ341円の関税を維持する代わりに、米国産とオーストラリア産のコメを無関税で輸入する枠を新設し、発効から13年目に計7万8400トンに広げることで合意した。稲作農家には、安い海外産米の流入で打撃を受けることへの懸念が根強い。
だが、涌井氏からは嘆き節は聞かれない。一昨年には、いち早く“TPP時代”を見据えて、秋田、岩手、宮城3県の農業生産法人と共同出資で「東日本コメ産業生産者連合会」を立ち上げ、農業機械の共同調達など農業の競争力強化に取り組んできた。
涌井氏が最大の課題として挙げるのは「生産コストの削減」だ。農産物の生産コストには農業機械、肥料代、農薬代などがあるが、「農家が自分で決められるものはほとんどなく、多くは農協と農業関連メーカーの間で決められている」と指摘。農協がメーカーと協力してコスト削減に取り組むよう求める。