マレーシアの首都クアラルンプールとシンガポールを結ぶマレー半島高速鉄道計画をめぐり、新幹線システムを輸出したい日本と、東南アジア一帯に鉄道網を広げたい中国の一騎打ちの構図が鮮明になってきた。昨年インドネシアでの受注合戦に敗れた日本は背水の陣で臨む。
◆中国優勢の報道
「中国が先頭走者」(マレーシアのスター紙)、「影響力行使で中国が先行」(シンガポールのストレーツ・タイムズ紙)-。現地メディアでは、中国優勢の観測を伝える報道が目立つ。
最大の理由は、中国の国営企業がマレーシアの政府系ファンド「1MDB」の資産を買い取ったり、事業に出資したりしていることだ。投資額は計40億ドル(約4271億円)以上に及ぶ。
高速鉄道はマレーシアとシンガポールの共同プロジェクトだが、運行距離の9割以上を占め、発言力が大きいとされるマレーシアに中国が受注攻勢の照準を合わせているのは明らかだ。
マレーシアのナジブ首相が設立した1MDBは巨額負債を抱え、政権を揺るがす資金流用疑惑の震源でもある。中国が破格の投資で1MDBの債務を軽減し、ナジブ首相に「貸し」をつくる構図になっている。
極め付きの攻勢は、高速鉄道のマレーシア側の終着駅を含む首都再開発事業への出資だ。鉄道建設大手中国中鉄の参画が昨年12月に決定。新幹線システムと駅構内の商業施設「エキナカ」をパッケージで売り込む戦略だった日本勢にとっては手痛い“失点”となった。
返す刀で中国中鉄は今年3月、クアラルンプールに「アジア太平洋本社」を設立すると発表。来賓のナジブ首相は満面の笑みで「中国中鉄のように素早く決断してくれれば、われわれも同じように素早く反応する」とたたえた。