トランプ氏TPP脱退通告表明 かつての日米貿易摩擦のような激しい対立生む恐れ

 トランプ次期米大統領が就任初日に環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)脱退を通告すると表明し、協定の“漂流”はほぼ確定した。世界の国内総生産(GDP)の4割を占める巨大経済圏の頓挫は保護主義の波となって各国に伝わり、経済活動を萎縮させかねない。世界の安定を守るため続けられてきた自由貿易の取り組みは、大きな壁に直面した。

 「中国や日本からの輸入増で米国の雇用が奪われている」。ヒトやモノの自由な移動に対するトランプ氏の批判的な見方は、今や米国だけのものではない。

 自由貿易は国境の垣根を低くして貿易や経済規模の拡大に寄与した半面、世界中で勝者と敗者を生み、貧富の差を拡大させた。英国の欧州連合(EU)離脱も、東欧から流入する労働移民への不満が背景にある。

 一方、保護主義には大きな副作用がある。1929年の世界大恐慌を乗り越えるため、各国が輸入品に高い関税をかけて自国産業を保護した結果、貿易量の減少と恐慌の深刻化を招き第二次世界大戦の一因となった。日本が農産品の市場開放など痛みに耐えて自由貿易の取り組みを進めたのも、かつての過ちの教訓があるからだ。

 ただ、発効条件を変えても米国抜きのTPPは難しい。参加国は域内GDPの6割を占める米国市場の開放目当てに高レベルの関税撤廃率や貿易・投資ルールの自由化を受諾しており、国内の理解が得られない。

 また、自国第一を全面に掲げるトランプ新政権と日米自由貿易協定(FTA)交渉に臨めば、かつての日米貿易摩擦のような激しい対立を生む恐れがある。

 それでも再び台頭した保護主義にあらがうには、巨大自由貿易協定(メガFTA)の機運を維持しなくてはならない。残る希望は交渉が大詰めを迎えた欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)。日本は合意を急ぎ、世界に向け反撃ののろしを上げる必要がある。(田辺裕晶)