【飛び立つミャンマー】高橋昭雄東大教授の農村見聞録(39) (3/3ページ)

2016.12.23 05:00

キリスト経典を学ぶカシ村寄宿学校で昼食中の学生たち=2016年、シャン州ラーショー郡(筆者撮影)
キリスト経典を学ぶカシ村寄宿学校で昼食中の学生たち=2016年、シャン州ラーショー郡(筆者撮影)【拡大】

 ◆土地問題が沸騰

 ところが、最近になってこの村にいくつかの問題が生じている。その一つが、11年の「民主化」以降、ミャンマー全土で沸騰している土地問題である。特にシャン州はその最前線となっている。カシ村もご多分に漏れず、1994~95年に村人たちが汗水流して開拓したトウモロコシ農地300エーカー(1エーカーは約0.4ヘクタール)が国軍に接収されてゴム園になり、95~96年には同150エーカーが民間のセメント会社に払い下げられた。国有地ということで、村人には何の補償もなかった。

 ミャンマーでは国有地でも耕作権が認められているが、この村では前述の経緯もあって、その権利を証明する文書が存在しない。また、リスの人々が権利を主張すれば、その前に森を使っていた人々が声を上げることになるかもしれない。シャンの「新しい村」はどこでもこうしたリスクを孕(はら)んでいる。

 二つ目は、2010年代に再び激化してきた内戦の影響である。この村には戦乱に巻き込まれたリス民族の77世帯が避難してきた。だが、もう村には彼らを受け入れる土地はない。彼らはディアスポラとして村に定着することは不可能であり、難民のまま故地への帰還を待ち続けるしかない。

 シャン州の内戦に村人たちは「新しい村」の建設によって対処してきたが、今はそれもかなわず、戦乱の地の人々は難民として漂流せざるを得ないのである。(随時掲載)

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