タイ新国王、軍政と「すきま風」 新憲法案に異例の修正要請 (3/3ページ)

ワチラロンコン国王(右)とプラユット暫定首相(左)が出席して行われたタイ新憲法公布式典=6日、バンコクのアナンタサマーコム宮殿(AP)
ワチラロンコン国王(右)とプラユット暫定首相(左)が出席して行われたタイ新憲法公布式典=6日、バンコクのアナンタサマーコム宮殿(AP)【拡大】

 直前に待った

 さらに、歴代憲法に盛り込まれてきた「本憲法に適用する条文がない場合は、国王を元首とする民主主義の統治慣習によって判断しなければならない」とする条文にも、軍の関与を組み込もうと画策した。最終判断権を憲法裁長官らに持たせるとする規定を新たに設け、人事権を持つ軍が差配できる余地を拡大しようとしたのだった。

 ところが、署名直前になってこの規定にワチラロンコン国王が待ったをかけた。立憲主義国家における憲法制定作業に国王が関与を求めることは極めて異例なことだ。国王はこのタブーに挑みながらも、軍の影響力拡大に歯止めを掛ける必要があると考えたとみられている。

 こうして最終的に条文から削除されたのが軍関与の追加規定だった。同条文は憲法上の努力義務と読むのがタイの憲法学では通説であり、最終判断権そのものが意味をなさない。このほか、いくつかの条文でも修正が行われた。

 新憲法の作成過程で起こった国王による異例の修正要請は、タイのメディアの間では「新国王と軍政の間で吹いたすきま風」と受け止められている。

 偉大な父、プミポン前国王を継ぎ、山積する難題に立ち向かう新国王と、国王の軍隊として一糸乱れぬ存在のタイ王国軍。新憲法の作成過程で生じた思わぬ「すきま風」が凪(なぎ)に変わるのをタイの国民は静かに待っている。(在バンコクジャーナリスト・小堀晋一)