日欧EPA、“早期妥結”前面に、チーズは聖域外?市場開放阻止せず

 自民党の対策本部が23日まとめた日欧EPA交渉に関する要望書は、農産物の関税確保を求めつつ協定の早期妥結を前面に打ち出した。脱退も辞さない姿勢を示した環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)と異なり、与党と政府が交渉促進で足並みをそろえる。日欧で巨大自由貿易協定(メガFTA)を誕生させ、世界で広がる保護主義的な動きに歯止めをかける考えだ。

 「トランプ政権の登場で自由貿易の基礎が揺らぎかねない状況にある。日本は率先してEPAを締結すべきだ」

 23日の対策本部では、取りまとめ役の議員から交渉の加速を求める声が相次いだ。この日公表した要望書でも、最初の項目に「交渉の早期妥結を実現することは極めて重要」と明記し、党として意見集約を後押しする姿勢をみせた。

 対照的だったのは昨年末に国会承認したTPPだ。平成25年4月に衆参農林水産委員会がコメや牛・豚肉など重要農産品5分野を聖域扱いするよう決議。交渉を与党が監視する姿勢を示し、安易な妥協をしないようくぎを刺した。

 日欧EPAで農林族議員からの反発が今ひとつ高まらない大きな要因は、最大の懸案がチーズだからだ。TPPのように主食のコメで市場開放を迫られれば紛糾は避けられない。だが、チーズの場合は生産地が北海道など国内の一部にとどまり、抵抗も限定的だ。

 政府はチーズの関税品目を細分化し、国内産と競合が少ない品目は、個別に税率引き下げを判断する方向だ。市場開放を絶対に阻止する、との強い動きはみられない。

 政府は7月6日にも日欧首脳会談を開きEPAを大枠合意する考え。交渉を急ぐのは、公正な貿易ルールの構築を通じ、英国のEU離脱で不確実性が増す欧州市場での企業活動を後押しする狙いがあるからだ。

 同時に、日本政府にとっては、貿易赤字の削減に向け市場開放を迫る米国を牽(けん)制(せい)する思惑もある。対日輸出で不利になった米国内の生産者から不満の声が高まれば、TPP離脱を決断したトランプ政権には逆風だ。米国を、多国間の貿易交渉に引き戻す一つのきっかけとなる可能性がある。(田辺裕晶)