【上海摩天楼】なぜ日東電工はしくじった? 対中ビジネス、日本企業の“正しい撤退作法”とは (3/3ページ)

日本をはじめ海外から巨額の投資を呼びこみ、めざましい経済発展をとげた中国上海市の国際金融センター(河崎真澄撮影)
日本をはじめ海外から巨額の投資を呼びこみ、めざましい経済発展をとげた中国上海市の国際金融センター(河崎真澄撮影)【拡大】

 性善説適用は危険

 立花氏は“撤退の作法”として「法、理、情」の3つを挙げた。日東電工のケースは法的になんら瑕疵(かし)はなく、従業員の保障もしっかり用意していた。合法的な手続きはいかなる場合でも重要だ。だが、「管理職以上しか知り得ない経営の重要事項を盾に、一般の従業員が抗議デモを起こしたことは経営の合理性、“理”にかなわない」という。内部情報管理で手抜かりがあった恐れがある。中国人にとり1年で最も大切な春節時期の考慮や保障面など、“情”の見直しも必要かもしれない。

 撤退でも転進でも、進出の何倍もの時間と綿密な準備が必要になることは間違いない。例えは悪いが、結婚と離婚の手続き差を考えれば類似性もある。

 立花氏は「中国企業からノウハウを学びたい」と話す。現地法人の幹部社員で、金銭面などで重大な問題が見つかった人物を解雇する場合、中国企業は通常、数カ月から数年かけて徐々に責任ある部署から外して社内の重要情報に触れないようにし、その人物が知っている重要事項では対策を取る手法がある。これを“脱密”と呼ぶ。

 秘密事項から脱するよう社内で外堀を埋め、退職しても経営にダメージを与えられないようにした上で「即日解雇」を通告する方法だ。それなりの保障も必要だが、経営機密や取引情報の漏洩を守ることができる。日本企業としては慣れない人事管理だが、中国において日本の国内ルールや習慣、性善説をそのまま適用することは危険だ。

 人件費高騰など投資環境の変化にどう対応すべきか、管理職を含む従業員との関係をいかに健全なものに保ち続けるか、その上で「撤退」「転進」が必要になったとき、いかに周到に準備を行うことができるか、確実にシミュレーションしておくべきだ。改革・開放から40年を迎える今年を、対中ビジネス戦略転換の年、と位置づけよう。(上海 河崎真澄)