現在、PDOの規則に合うカマンベールチーズは全体生産量のわずか1%に過ぎない。つまり市場で見かけるカマンベールチーズはほとんどが「ノルマンディで生産されたカマンベール」である。
スローフードがこの一件に危機意識をもつのは、行政の地理的表示と同様、同団体は世界の地域に特有の動物・食材・生産技術などを保護する活動を行っているからだ。
生物多様性のためのスローフード財団はプレシディアという認定制度を運用している。行政の地理的表示が経済促進を目的に、往々にして中堅以上の企業が集まる組合などの製品を保護するのに対し、プレシディアは零細・中小の農産品生産者のグループが対象になりやい。
2016年末時点において、世界67カ国の514がプレシディアの認証を受けており、地域で分けると欧州405、アメリカ49、アフリカ41、アジア・オセアニア19である。
プレシディアは自然・文化保護の色合いが強く、「地元ではあまり名が知られないが海外市場で有名な製品」を否定的に捉える。生産地の人たちが買うことが先決である。したがって大都市での販路開拓と観光で人が押し寄せることばかり考える人たちの製品がプレシディアの認定を受けるのは難しい。
とてもラジカルな仕組みである。だからフランスの伝統食品の絶滅危機にも闘う姿勢は鮮明なわけである。